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翻訳コラム

COLUMN

第193回お客さんが来た

2014.06.25
通訳・翻訳家 伊藤祥雄

中国語って発音は難しいけど文法は簡単だと言われることが多いですよね。

決して間違っているとは思いませんが、実は文法もそんなに簡単ではないです。皆さんも「これってどうしてこういう語順になっているんだろう」と思うことが時々あるのではないかと思います。

例えば「雨が降ってきた」を中国語で言うとどうなるでしょうか。

下雨了。
xià yŭ le

日本語だと「雨」が主語になるのに、中国語では「雨」は「下」という動詞の目的語の位置に入っています。

「マーボードーフはありますか?」はどう言うでしょうか。

有麻婆豆腐吗?
yŏu má pó dòu fu ma

これも日本語だと主語になっているもの(マーボードーフ)が中国語だと目的語(動詞の後)の位置に入ります。

以前にもメルマガで紹介したことがあるのですが、これらは「存現文」と呼ばれる文です。

存現文とは、どこかであるモノが存在・出現・消失することを描写的に述べる文型です。語順は、「場所→動詞→モノ」という語順になります。つまり主語は、モノの存在・出現・消失する場所なのですね。で、その主語が省略されると上記の例のようになってしまうわけです。

「下雨了。」なら、例えば「外边下雨了。(外では雨が降ってきた)」というように、「外边」のような主語が本当はあり、それが省略されているのです。

「有麻婆豆腐吗?」なら「この店」とか「あなたがた」というような主語が省略されているのですね。

また、存現文の特徴として、動詞の後に入る名詞(モノ)は、話者にとっては不定のもの(よく分からないもの、情報不足のもの、特定のものではなく一般的なもの)でなければなりません。

「下雨了。」の「雨」は、話者にとっては降る直前まで目に見えていないモノだったわけですし、「有麻婆豆腐吗?」の「麻婆豆腐」は「昨日私が食べ残した麻婆豆腐」ではなく「いわゆる麻婆豆腐という料理」という一般的なものを指しているわけですね。

このように、存現文ってちょっと変わった文型なのです。

では、「お客さんが来ました」はどう言いましょうか。

我々日本語話者としては、こんなふうに言いたくなりますよね。

客人来了。
kè rén lái le

これでも正解です。でもこんな表現もあります。

来客人了。
lái kè rén le

後者は存現文の語順になっているのが分かりますか?

この場合、主語は「我々の家」とかでしょうか。何かが省略されているのですね。

そして、「客人」が「来」の後ろに入ることで、この「客人」はよく分からない情報不足の客人であることが示されることになります。

つまり、予定していたお客様がいらっしゃった時は「客人来了。」となるのですが、「来客人了。」と言えば突然知らない人がやってきた、という感じが出るのですね。

「客人来了。」も「来客人了。」も、両方OKだなんて、西洋語に慣れた人からするとビックリかもしれませんが、中国語としては一応使い分けがあるのです。時々「中国語には文法が無い」なんて暴言を吐く人がいますが(笑)、中国語には西洋語の常識(?)にはおさまりきらない文法の世界があるようです。

伊藤祥雄

1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了

通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当

著書

  • 文法から学べる中国語
  • 中国語!聞き取り・書き取りドリル
  • CD付き 文法から学べる中国語ドリル
  • 中国語検定対策4級問題集
  • 中国語検定対策3級問題集
  • ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本