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翻訳コラム

COLUMN

第243回いつのまに?

2015.06.17
通訳・翻訳家 伊藤祥雄

先日、北方四島のことをちょっとインターネット等で確認したのですが、最近は「歯舞群島」と言うらしいことを知り、ちょっとびっくりしました。
僕が小学生の頃に習ったのは、確か「歯舞諸島」だったはずなのです。どちらでもいいのかと思ったら、どうも最近は「歯舞群島」ということになっているようですね〜。
昔ザイール(扎伊尔 zā yī ěr)と言っていた国が今はコンゴ(刚果 gāng guŏ)となっていたり、ユーゴスラビア(南斯拉夫 nán sī lā fū)という国が無くなっていたり、まぁ色々と世の中変化しています。40数年も生きていると、色々変わっていても仕方ありませんね〜(笑)。
こういう地名の変化、当然中国語でも同じように変化しているはずなのですが、ちょっと様子が違う場合もあるようです。

ミャンマー

たとえば、ミャンマーという国。日本では昔「ビルマ」と呼んでいましたよね。みなさんの中にも子供の頃に「ビルマの竪琴」という小説を読んだ、もしくは同名の映画を見た、という人がいるのではないでしょうか。
この国では1989年に現政権が英語呼称をBurmaからMyanmarに変えました。それに伴って日本でも「ビルマ」から「ミャンマー」と呼び方を変えることになったようです。もちろん、さまざまな信条から今でも「ビルマ」という呼称を用いている人や団体もあるようですが、一応日本では公式には「ミャンマー」を採用しているようですね。
さて、この「ミャンマー」という国の名前、中国語ではどう言うか、ご存知でしょうか。

缅甸
miăn diàn

この地名、「缅 miăn」が「ミャンマー」の「ミャン」と似ている感じはしますが、「甸 diàn」がどこからきたのか分かりませんよね。今までず〜っと変だな〜と思っていたものの調べていなかったのですが、このたび調べてみました!(笑)
いや、調べてみるものですね〜。実はこの「缅甸」という地名、音訳ではなかったのです!「缅」という字は「遥か遠い」というような意味があるそうです。また「甸」という字は「郊外」という意味があるそうです。つまり「缅甸」とは「遥か遠い郊外」という意味なのだそうです。
つまり、「缅甸」とは、昔の中国人がミャンマーのことを「遠い辺鄙な地域だ」と思ってつけた名前だったのです!
ですから、英語呼称がBurmaからMyanmarに変わろうと、日本語でビルマがミャンマーに変わろうと、中国語では関係ないのですね〜。なるほどなるほど(笑)。
この「ビルマ」「ミャンマー」のように、中国以外では名前の違いで色々と難しい問題があったりするけど中国では関係ないということがある反面、外では何も変わらないのに中国では変化があった、という例もあります。

ソウル

ソウルは言わずと知れた韓国の首都ですね。この都市の名前は、古い時代には「漢陽」と呼ばれ、李氏朝鮮の時代に「漢城」と呼ばれるようになったようです。その後日韓併合時代には「京城」と呼ばれていたようですが、第2次大戦後に「ソウル」と呼ばれるようになりました。
「ソウル」は純粋な韓国語の語彙ですから漢字表記がありません。ですから中国ではこの都市のことを長い間こんなふうに呼んでいました。

汉城
hàn chéng

そう、李氏朝鮮時代の呼び方「漢城」を中国語読みしていたわけですね。
しかし、この「汉城」という呼び方は、韓国人からするとどうも古臭く感じるし、中国を宗主国としていた時代の呼び方でもあるので、違和感があったのだそうです。そこでソウル市が自ら漢字表記を考え、正式にそれを中国語表記としました。2005年のことです。どういう表記にしたかというと…

首尔
shŏu ěr

あれから10年ほどたち、中国でも今はすっかり「首尔」という呼び名が定着した感がありますね。最初僕は、定着するのかなぁ?と心配して見ていたのですが、意外にあっさり(笑)。
でも先日中国人とソウルオリンピックについて話していた時、彼が「ソウルオリンピック」は今でもみんな「汉城奥运会 hàn chéng ào yùn huì」と言うのが普通だと言っていました。当時はまだソウルのことを「汉城」と呼んでいたからです。
で、その時に彼がふとつぶやいたのです。「ソウルオリンピックの時は韓国の首都ってどういう名前だったんだろう」と。
そう、彼は、韓国の首都が「汉城」から「首尔」に変わったのは、韓国の首都の名前自体が、何か別の名前から「ソウル」という名前に改名されたからだと思い込んでいたのです。つまり、実は中国語での言い方だけが変わったのであって外の世界では何ら変わらず「ソウル」のままであったことを、彼は知らなかったのです!
「首尔」が思いのほかすんなりと中国で受け入れられ定着したのは、もしかしたら多くの中国人は(中国語表記だけが変わったのではなく)韓国の首都の名前自体が変わったのだと思ったからかもしれませんね。

伊藤祥雄

1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了

通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当

著書

  • 文法から学べる中国語
  • 中国語!聞き取り・書き取りドリル
  • CD付き 文法から学べる中国語ドリル
  • 中国語検定対策4級問題集
  • 中国語検定対策3級問題集
  • ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本