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翻訳コラム

COLUMN

第268回「勧(劝)」とか「陪」とか

2016.01.06
通訳・翻訳家 伊藤祥雄

以前あるテレビ番組で、日本の市町村の出す「避難指示」「避難勧告」というような措置がどのくらいの強制力を持つのかが分かりにくいというようなことを言っていました。

ここ数年台風や豪雨で洪水や土砂災害に見舞われることが増えて来て、市町村が事前に避難指示や避難勧告を出していても住民がその意味を正しく理解していないために避難が遅れるという問題が発生しているそうですが、そのことに対する反省としてこの番組ではこの措置の意味や強制力などについて色々説明していました。

ゲストのタレントたちが「こんな漢字ばっかりじゃ分かりにくいですよ。『今すぐ逃げなさい情報』とかだとすぐに意味が分かっていいのに」というようなことを、半ば冗談を交えて言っていましたが、実際そうなのですよね。日本人って漢字大好きなくせに、あまり漢字1つ1つの意味に詳しくなかったりするので、こういう漢字の羅列を見ても意味がすっと頭に入ってこないようです。

例えば、この番組の中でもやっていましたが、「避難勧告」と「避難指示」どちらのほうがより強い措置だと思いますか?

どちらも住民に避難を呼び掛けているのは変わりないのですが、どちらのほうが強いのかというと、実は「避難指示」のほうが強いのです。

なんとなく、「指示」は日常会話でもよく使う語彙ですが「勧告」はあまり日常使わない単語なので、「勧告」のほうが強そうな気もしますよね。

そもそも、「勧告」の「勧」という字の意味を皆さんはよくお分かりでしょうか。

このメルマガの読者の皆さんは中国語を勉強されているわけですから、すぐ分かりますよね?「勧める、アドバイスする、忠告する」というような意味です。

中国語ではこの「勧」という字はふつうに日常的に使う語彙ですよね。ま、簡体字だと「劝」という形になっていますから、この字が「勧」という字と同じ字とは思っていない人もいるかもしれませんが(笑)。

例えばこんなふうに使います:

我劝他休息一下。
wŏ quàn tā xiū xi yí xià
私は彼に少し休むよう忠告した。

「劝」が「忠告する、アドバイスする」という意味だとわかれば、「勧告」がそんなに強い言葉でないことがよく分かるのではないでしょうか。

「勧」という字は、日本語の中で別にそんなに目にしない漢字ではないのですが、といって日常的によく目にする漢字でもないですよね?また、似たような字で同じ音(日本語の漢字音)のものものいくつかあり(観、歓、勘)、混乱しそうでもあります。

でも中国語ではふつうに日常的に使う字なので、中国語を勉強しておけば「勧告」という言葉を聞いても意味がわりあいすんなり入ってくるのではないでしょうか。こじつけかな(笑)。

他にも例えば「陪」という字、この字だけを見てどういう意味があるか、ちょっとピンとこないかもしれませんよね。あまりしょっちゅう目にする漢字ではありませんしね。

例えば日本語だと「陪席」「陪審員」などの単語に使われている字ですけど、これらの単語を見ても、「陪」という字の意味がもう1つピンとこない人もいるような気がします。

でも我々中国語学習者だと分かりますよね?なぜなら、中国語ではこの「陪 péi」という字は「つきそう、お供する」というような意味でよく使う単語だからです。例えば:

我陪他去看电影。
wŏ péi tā qù kàn diàn yĭng
私は彼につきそって映画を見に行きます。

「陪」が「つきそう」というような意味だとすると、日本語の「陪席」という単語も意味が分かってきますよね。「付き添って席に着く」ということで、「(目上の)人につき従って同席する」というような意味です。

我々日本語ネイティブは、普段から漢字を使っている割には、意外と漢字1つ1つの意味については無頓着だったりします。せっかく中国語を勉強しているので、この機会に漢字1つ1つの意味にも目を向けてみると、日本語力の向上にもつながるかもしれません。よき国際人であるためにも、母語の力は高めたいですよね。

伊藤祥雄

1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了

通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当

著書

  • 文法から学べる中国語
  • 中国語!聞き取り・書き取りドリル
  • CD付き 文法から学べる中国語ドリル
  • 中国語検定対策4級問題集
  • 中国語検定対策3級問題集
  • ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本

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