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翻訳コラム

COLUMN

第279回未知の情報は後

2016.03.23
通訳・翻訳家 伊藤祥雄

少し前に「既知の情報は前」ということをこのブログでお話しましたが、今日はそれの続編というような内容です。

その時書いたことは、「話し手や聞き手にとってよく分からないもの、話題になっていなかったもの(未知の情報)は動詞の後に入る傾向にある」「逆によく分かっているもの、すでに話題になっているもの(既知の情報)は動詞の前に入る傾向にある」という話でした。例えば:

1.下雨了。
xià yŭ le
雨が降ってきた。

2.雨停了。
yŭ tíng le
雨がやんだ。

1の文では、雨がまだ降っていない状態から降っている状態に変わった時に発する言葉ですから、雨はその時初めて現れたもの、つまり話し手や聞き手にとっては「未知の情報」です。だから「雨」は動詞「下」の後ろに入っているのですね。

それに対して2の文は、雨が降っている状態から降っていない状態に変わった時に発する言葉ですから、雨は話し手や聞き手にとって「既知の情報」です。だから、「雨」は動詞「停」の前に入っているのですね。

さて、実はこの1の文は、文法的には「存現文」と呼ばれる構文です。存現文とは、未知の情報がある場所に存在すること、出現すること、消失することを述べる文です。存現文でなくても「未知の情報は後」という傾向はあるのですが、存現文は未知の情報のことを述べる文なので、必ず「未知の情報」を動詞の後ろに置きます。例えば:

3.百货大楼左边有邮局。
băi huò dà lóu zuŏ bian yŏu yóu jú
デパートの左側に郵便局があります。(未知の情報の存在を表す文)

この文の場合、「デパート」があることを知っている人に、そのデパートの近くにあるものを教えているような場面です。デパートは話し手も聞き手も知っている情報なので動詞「有」の前、郵便局は話し手は知っているでしょうが聞き手は知らない「未知の情報」ですから動詞の後に入ります。

4.黑板上写着几个字。
hēi băn shang xiě zhe jĭ ge zì
黒板には字がいくつか書いてあります。(未知の情報の存在)

この文の場合、字が書かれていることは聞き手にとって初めて聞く情報のはずなので、字は「未知の情報」です。だから動詞の後に入っています。

5.我家来了一个客人。
wŏ jiā lái le yí ge kè ren
私の家にお客さんが1人来ました。(未知の情報の出現)

この文の場合、お客さんはまだ誰か分かっていない状態です。突然のお客さんが現れた感じが出ています。もし来る予定の客が来たような場合であれば「客人」は既知の情報になるので動詞の前に置いて「客人来了。」となります。

6.他死了父亲。
tā sĭ le fù qin
彼は父親を亡くした。(未知の情報の消失)

この文は、「彼の父親」が亡くなったことを言っているのではなく、彼という人が「父親」という存在を失ったことにスポットが当たっています。つまり「父親」は話し手にとっても聞き手にとっても、知っている人である必要はありません。そういう意味で「未知の情報」扱いになるので、動詞の後ろに入っています。

このように、存現文では必ず「未知の情報(もしくは話し手や聞き手にとって重要でない情報)」は動詞の後ろに入ります。

面白いのは、この構文をとることで、動詞の後ろに入った名詞が「未知の情報」の扱いになって一定の効果を出すことがあるということです。

次の文は、一時期中国で誰もが歌ったことがあるであろう歌の一節です。

7.中国出了个毛泽东。
zhōng guó chū le ge máo zé dōng
中国に毛沢東が出現した。

「毛沢東(毛泽东)」は、ご存知ですよね?中華人民共和国の創立者です。ですから、この歌を歌う人で毛沢東を知らない人などいるはずがありません。それにもかかわらず、この7の文は存現文の形を取っており、「毛沢東」は動詞「出」の後、つまり「未知の情報」が入るべき位置に入っているのです!

つまり、この語順をとることで、「毛沢東」というそれまで知られていなかった未知の英雄が突如現れたような、そんなニュアンスが出るのですね。

この歌の歌詞を見て、この秘密(大袈裟)に気づいた時は、頭の中で花火が打ち上がりました(笑)。それ以来、僕は存現文が大好きです。

伊藤祥雄

1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了

通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当

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