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翻訳コラム

COLUMN

第281回意味が薄れる

2016.04.06
通訳・翻訳家 伊藤祥雄

言葉の意味や形態って少しずつ変わっていくらしいですねぇ。日本語で言うと、たとえば「ワイシャツ」という言葉。

この「ワイ」の部分は元々英語の「white(ホワイト、白)」のことだったそうです。つまり「ホワイトシャツ」というのが鈍って(?)「ワイシャツ」と言われるようになったとか。

でも、今やこの「ホワイト」の意味はすっかり薄れてしまっていますよね。「ピンクのワイシャツ」って言っても誰も違和感を覚えないのではないでしょうか(笑)。

このように、言葉の意味って段々薄れたり、時には全く違う意味にさえなってしまうこともあるようです。

中国語で見ると、中国語は全て漢字で意味がはっきりしているにも関わらず、意味が薄れているものも結構あり面白いです。例えば前置詞(介词)は全て動詞起源で、動詞の意味が薄れたモノと言えるでしょう。

我每天在家吃晚饭。

wŏ měi tiān zài jiā chī wăn fàn
私は毎日家で晩御飯を食べます。

この例の「在」は元々動詞で「ある、いる」という意味でした。今でももちろん動詞としての用法もあるのですが、この例文だと「私が家にいる」ということではなく「晩御飯を食べる場所」が「家」だと言っているので、元の「ある、いる」という意味はすっかり薄れて、動作をおこなう場所を表す前置詞として使われていることが分かると思います。

我给他写了一封信。

wŏ gěi tā xiě le yì fēng xìn
私は彼に手紙を1通書きました。

この例の「给」は元々動詞で「与える」というような意味でした。今でももちろん動詞としての用法もあるのですが、この例文だと「私が彼に何かを与える」という意味は薄れており、単に「手紙を書く」という動作の対象が「彼」であることを示しています。つまり、この「给」は、動作の対象を表す前置詞として使われていることが分かると思います。

とまぁ、このように、前置詞は動詞の意味が薄れたモノのようです。

しかし、まぁこれらは元の意味を少しは残しているので分かりやすいのですが、先日ちょっと面白い例に遭遇しました。

某所で「安重根に暗殺された伊藤博文」というところの「暗殺」が中国語で「刺杀 cì shā」と訳されていて、これが誤訳ではないかと少し問題になりました。

実際には伊藤博文は銃で撃たれて死んでいます。ですから「刺杀cì shā」ではなく「枪杀 qiāng shā」が正しいのではないかというわけです。

しかし当の翻訳者は、中国語の「刺杀 cì shā」は「暗殺する」という意味があり、その場合は刃物などで刺し殺していなくても「刺杀 cì shā」と言えるのだ、というのです。

これは中国人の中でも反対意見があったようでしたが、結局、刃物で刺し殺していなくても暗殺という意味で使えるという結論に達しました。実際、僕の持っている辞書でも「刺杀 cì shā」は「刺殺する」とは書かれておらず、「暗殺する」とのみ書かれていました。最も権威があるとされる『现代汉语词典』(商务印书馆)で「刺杀 cì shā」を調べると「用武器暗杀(武器を使って暗殺する)」と説明されています。

つまり、元々はもちろん漢字の意味のとおり、「刺殺する」という意味だったのでしょう。また暗殺という行為も昔は多くは刃物で刺し殺すというのが一般的(?)だったのでしょう。だから「暗殺する」ことを「刺杀 cì shā」と言うようになったのでしょう。しかし時代が進むにつれ、暗殺の方法も多様化し、刃物だけではなくなって来たのでしょうね。ところが、言葉のほうはそうそう簡単には変化せず、「刺杀 cì shā」という言い方が残ってしまったのでしょう。

つまり、「刺す」という意味がこの場合はかなり薄れてしまっていると言えます。

中国語は漢字を使うから、言葉の意味が薄れたり変化して意味がずれていることがはっきり見て取れることがあり、面白いですねぇ。ただ、こういう単語は要注意です。他にも色々こういうことがあるのかもしれません。やはり漢字は曲者。常に疑ってかからないといけませんね。

伊藤祥雄

1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了

通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当

著書

  • 文法から学べる中国語
  • 中国語!聞き取り・書き取りドリル
  • CD付き 文法から学べる中国語ドリル
  • 中国語検定対策4級問題集
  • 中国語検定対策3級問題集
  • ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本

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