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翻訳コラム

COLUMN

第300回ある/いる

2016.08.24
通訳・翻訳家 伊藤祥雄

日本語の「ある」「いる」という動詞、中国語に訳すと「在 zài」になる場合と「有 yŏu」になる場合とありますよね。

「在」は、物や人がどこに存在するか、その場所を言いたい時に使います。つまり「所在」を表すのですね。例えば:

他在家。
tā zài jiā

この文は「彼には家がある」ではなく「彼は家にいる」です。彼の所在を言っています。

それに対して「有」は、ある範囲の中にどんな人や物が存在するかを言いたい時に使います。例えば:

他有家。
tā yŏu jiā

この文は「彼」という範囲(影響力下?)に「家」というものが存在する、ということで、「彼には家がある」(要するに「彼は家を持っている」)という意味です。「彼は家にいる」という意味ではありません。

これだけ見ると、当たり前のことを書いているように思われるかもしれませんが、結構混乱する人が多いようです。その理由を考えるに、どうも日本語の「ある」「いる」の用法があいまいだからかもしれないと思い到りました。

例えば、次の文はどう訳しましょうか。

教室里有三个学生。
jiào shì li yŏu sān ge xué sheng

そうですね。「教室の中には3人の学生がいます」と訳せれば万々歳ですが、多くの人が「教室の中に3人の学生がいます」と訳します。間違ってはいないので今まで僕もあまり注意しませんでしたが、「教室の中には」とやるかどうかで意識に差が出て来るような気がしました。

「教室の中には」とやると、「教室の中」の話題について話すのだ、という意識が強調され、「教室の中」という範囲に何があるかを言っている、ということを意識しやすいのではないでしょうか。

これをあまり考えずに、適当に「教室の中に3人の学生がいます」とやると、この文の主題がはっきりしなくなります。まして少し言い間違って「教室の中に3人の学生はいます」とやったら、「3人の学生」がこの文の主題になってしまいます。すると、「3人の学生は教室の中にいます」という意味と同じような感覚になりますよね?

「(その)3人の学生は教室の中にいます」だと、「(那)三个学生在教室里」という中国語になります。

つまり、頭の中で「教室の中に3人の学生がいます」と「3人の学生は教室の中にいます」の区別がついていない人が、日本人には非常に多いのですね。まして日本語は語順が結構自由ですから、「3人の学生が教室の中にいます」というふうに「3人の学生が」を文頭に持ってきてしまうと、「3人の学生は教室の中にいます」とほとんど区別がつきません。

日本語って、そう考えてみると非常に微妙ですねぇ。手品師が手品を始める前に「ここにコインがあります。」と言うつもりだったのに「コインがここにあります」と言ってしまったとしても、なんらおかしくありません。

手品が進んでそのコインが消え別の場所から出てきたような場合、手品師はこう言うでしょう。「コインはここにあります」

前者は「这儿有硬币」、後者は「硬币在这儿」となりますが、日本語は両者の区別が形の上であまりはっきりしません。「は」か「が」の違いだけです。

そりゃぁ混乱もしますよね(笑)。「有」と「在」の使い分けができない、できるけれどちょっと混乱している、という人が多いのも無理はありません。

それを回避するためには、先ほど申し上げたように、「は」を巧みに利用することだと思います。特に「有」の文を訳す時に、「有」の前にあるものに「は」をつけて訳す癖をつけ、意識の改革を図るのです(笑)。

例えば上記のコインの例でいくと、「这儿有硬币」を訳す時に「ここにコインがあります」ではなく「ここにはコインがあります」というふうに「ここには」と言うようにするのです。

そして、日本語の「は」には主題を明示する働きがあることも知っておいてくださいね。

そうすると、「〜には」となっている場合は、中国語ではそれを主語の位置に置いて「有」を使えばいいのです。

そういう意識付けをしておけば、「ここにコインがあります」と言われても「ここに」のところに「は」をつけられるから、ここが主題だと気づくようになるのではないでしょうか。

そして中国語では主題は文頭に来ますから、それを文頭に持ってくる。場所を表す言葉が文頭に来たら自然と動詞は「有」を選ぶ。。。というふうになって行くのではありませんかね?

外国語を勉強する時、自分の母語の文法をしっかり分かっていないといけない場面が少なからず出てきます。外国語を勉強していて何か混乱することがあれば、ちょっと母語のことを見つめ直すと、解決の糸口が見えて来るかもしれません。

伊藤祥雄

1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了

通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当

著書

  • 文法から学べる中国語
  • 中国語!聞き取り・書き取りドリル
  • CD付き 文法から学べる中国語ドリル
  • 中国語検定対策4級問題集
  • 中国語検定対策3級問題集
  • ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本

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