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翻訳コラム

COLUMN

第329回中国語の主語

2017.03.22
通訳・翻訳家 伊藤祥雄

我々日本育ちの人は、必ず中学高校で英語という言語を学び、その後も大学や社会で英語に多かれ少なかれ接するので、英語の語彙や文法に非常に親しんでいますね。

英語は、誰が何をやったか、何が誰によってなされたか、とてもはっきりしています。動詞と主語、動詞と目的語の関係がとてもはっきりしていて、読んだり聞いたりした時に誤解が起こりにくいような気がします。

つまり、動詞の前に置かれているものが主語で、主語はその動作を行う人や物であることが決まっています。基本的に主語を省略することはできませんから、誰が何をやるのかいつも明確です。誰がやるのかを言いたくない時は省略するのではなく受動態にして「〜が行われた」というような言い方にします。この辺は徹底していて、例えばこんな日本語は英語的観点からするとあり得ないわけですよね?

晩御飯は食べたの?

僕は英語には詳しくないのですが、このような日本語を英語に訳す場合もやはり「あなたは晩御飯を食べましたか?」というような表現にするしかないのではないか、と想像します。少なくとも「Did the dinner eat ?」(???)のようなことは絶対に言わないでしょう?これじゃ晩御飯が何かを食べたことになっちゃう。おとぎ話ならいざ知らず(笑)。

でも中国語なら日本語と同じようなことができちゃいます。つまり上記の「晩御飯は食べたの?」ならこうなります。

晚饭吃了吗?
wăn fàn chī le ma

中国語ではこの文の主語は「晚饭」だと言うのですが、つまり中国語の主語は必ずしも動作を行う人や物ではないということです。では何かというと、その時一番言いたいテーマのような感じです。

あるところでこんな文を見つけました

这个杯子花了多少钱?
zhè ge bēi zi huā le duō shao qián

この文の意味は要するに「このコップはいくらしましたか?」というような意味で、買ってきたコップの値段を尋ねているのですが、こういう主語と動詞の関係をおかしく感じる人って多いような気がします。

確かに英語的に見ると、「这个杯子(このコップ)」が「花(費やす)」という動作をしただなんて、変ですものね。でもこれは中国語。英語ではないのです。この文の主語である「这个杯子」はこの文のテーマです。つまり

「このコップに関してなんだけどね、いくら費やしたの?」

というような意味合いなのです。

こういうような説明をすると、英語の得意だった人ほど苦手意識が出てしまうようですね。多分、苦労して英語的思考パターンをやっと確立したのに、がっかりするのかもしれません。

頭を切り替えて、日本語と同じでいいんだ!と思えば、楽になれるのではないかなと思いますけどね〜(笑)。

というわけで、僕は最近こんなふうに説明します。つまり、主語が省略されているんですよ、というふうに。

つまり上記の文ならこんなふうにします。

这个杯子,你花了多少钱?
このコップ、あなたはどのくらいのお金を費やしたのですか?

「你(あなた)」というのを補ってみました。

皆さん日本語をペラペラしゃべっているくせに、中国語などの外国語をやるとなると頭のモードが英語に切り替わって、英語と中国語を比べて「中国語はおかしい」とか「なるほど」とか思ってしまうようですね〜。「なるほど」と思えるところはそのままにしてほしいのですが、「おかしい」と思うところは日本語と比べてみると「なんだ、日本語と同じじゃん!」と思えることが非常に多いです。英語以外の外国語を学ぶ時は、柔軟に対応したいですね〜。自戒も込めて(苦笑)。

伊藤祥雄

1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了

通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当

著書

  • 文法から学べる中国語
  • 中国語!聞き取り・書き取りドリル
  • CD付き 文法から学べる中国語ドリル
  • 中国語検定対策4級問題集
  • 中国語検定対策3級問題集
  • ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本