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翻訳コラム

COLUMN

第331回場面に応じて

2017.04.05
通訳・翻訳家 伊藤祥雄

僕の友人で、日本語教師になるために勉強をしている人がいます。某専門学校で日本語教師養成講座を受けているのですが、話を聞いていると色々と面白い世界ですね〜。

最近彼は、模擬授業をやらされたようです。受講生を外国人の日本語学習者に見立てて、その前で実際に日本語を教える授業を実演するわけです。面白そう!

で、模擬授業が終わってから、講座の先生からのコメントがあって、彼はこんなことを言われたそうです。

「相手が日本人だと思うから丁寧な言葉遣いをしているのだと思いますが、本物の外国人を相手にそんな丁寧な言葉遣いだと、生徒さんには分かりにくいと思いますよ。」

彼が模擬授業でどんな言葉づかいだったかというと、例えば

「まず先に黙読をしていただき、その後CDをお聞きになったらそれをリピートしていただいて・・・」

というように、とても丁寧に、敬語を使って話していたそうです。(実際に彼がその時どんな内容のことを言ったのかは知りません。勝手に僕が想像して作りました…笑)

でも実際の日本語教室なんかだと、日本語の授業を受けている生徒たちはみんなまだ日本語能力の高くない外国人ばかりです。「〜していただいて」とか「お聞きになったら」というような敬語はまだまだ難しい場合も多々ありますから、授業では初心者でもわかるように、ハードルを下げなければなりません。つまり:

「まず先に黙読をします。その後CDを聞いて、それをリピートします」

と言うほうがしっかりと相手に伝わるのだそうです。

なるほど、受講生は多分命令形は分かるでしょうから「黙読をしろ」なら意味が分かるかもしれませんが、それではあまりに乱暴な言い方ですから「黙読をしてください」とか「黙読をしていただきます」という丁寧な言い方をしたくなりますが、それだとまだ受講生にとっては難しい。それで、命令や指示をする感じではないですが「〜をします」というように、やることを羅列するのが一番伝わるのかもしれませんね。

言語は、同じ意味のことを言いたい時に様々なバリエーションがありますね。使う場面に応じてそれらを使い分けられるようになればなるほどレベルも上がって行くように思います。

同じことが中国語でも言えます。

僕は2年ほど前から、ある弁護士先生にマンツーマンで中国語を教えさせていただいています。最初はもちろん普通の中国語のテキストを使っていましたから、内容はどちらかというと学生向き、若者向きで、弁護士さんも「なんだかな〜」と思いながら付き合ってくださっていたようなのですが(笑)、一通り文法が終わって次にどんなテキストを使うか、となった時、いくつか候補をご本人に見せて選んでもらったのですが、選ばれたのはビジネスの色々な場面を想定した会話のテキストでした。これは僕が通訳の勉強をしていた時にも使ったことのあるテキストで、内容は結構難しいです。が、日本語と中国語の対訳になっているので、日本語を見て中国語に訳す練習をしてもらい、後で中国語の模範訳を見てもらうという方法で授業を進めています。そうすれば、ご本人のレベルに合わせた中国語と、フォーマルな場面で使うような中国語の両方が学べると思ったからです。

例えば、「皆さんにお会いできてうれしく思います」というようなことを言いたい時、普通の会話のテキストなどではこんなふうに書いてあることが多いと思います。

认识大家,我很高兴。
rèn shi dà jiā, wŏ hěn gāo xìng

これで十分ですよね。学習歴2年の弁護士先生の場合だと、こんなふうに言えたらもう完璧で、拍手喝采です。

しかしこのテキストには次のような模範訳が書いてありました。

有幸认识各位,我感到很高兴。
yŏu xìng rèn shi gè wèi, wŏ găn dào hěn gāo xìng

両者を比べると、前者では「皆さん」を「大家 dà jiā」とやっていましたが、後者は「各位 gè wèi」と言っていて、少し丁寧になった感がありますね。あと、字数が後者は4文字増えています。そう、前半部分の「有幸 yŏu xìng (幸運に恵まれる)」と、後半部分の「感到 găn dào (感じる)」です。

一般的な言い方「认识大家,我很高兴」を直訳すると「みんなと知り合って、私はとてもうれしい」ですが、フォーマルな言い方「有幸认识各位,我感到很高兴」を直訳すると「皆様と知り合う幸運に恵まれて、私はとてもうれしく感じております」という感じです。

同じようなことを言っているのですが、後者の方がずっと大人びていますし、丁寧ですし、カッコイイですよね(笑)。

他に例えば、自分の妹を誰かに引き合わせるような場面で「私は妹を紹介します。」というようなことを言いたい時、一般的なテキストならこんなふうに書いてあるでしょうかね。

我来介绍一下我妹妹。
wŏ lái jiè shào yí xià wŏ mèi mei

これも少し丁寧な言葉遣いが求められる場面だと、こうなります。

让我来介绍一下我妹妹。
ràng wŏ lái jiè shào yí xià wŏ mèi mei

何が違うか分かりますか?そう、冒頭に「让 ràng」があるかどうかですね。たったこれだけのことで何が違ってくるのでしょうか。ちょっと訳してみましょう。

前者は「私から妹のことをちょっと紹介します」という感じですかね。
後者は「私に妹のことをちょっと紹介させてください」となります。

そう、「让我〜」は「私に〜させてください」とお願いするような表現になるので、普通に言うよりも一歩下がった謙譲の気持ちが演出されるのです。

中国語は敬語表現がそんなに複雑ではなく、上記のように少し語彙を足すだけでぐっとフォーマル且つスマートになることがよくあるので、徐々に覚えていくといいと思います。場面に応じて様々な言い方を使い分けられるように、お互い頑張りましょうね〜!

伊藤祥雄

1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了

通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当

著書

  • 文法から学べる中国語
  • 中国語!聞き取り・書き取りドリル
  • CD付き 文法から学べる中国語ドリル
  • 中国語検定対策4級問題集
  • 中国語検定対策3級問題集
  • ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本

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