翻訳会社インターブックスは高品質な特許翻訳、契約書翻訳でニーズにお応えします

翻訳コラム

COLUMN

第9回均等論と自由技術の抗弁

弁理士・知的財産翻訳検定試験委員 藤岡隆浩
シリーズ「特許法の国際比較」

1.自由技術の抗弁とは

自由技術の抗弁とは、特許権の行使に対して自由技術だから権利行使を認めないとする法律上認められた事実を言います。自由技術とは、公知となっている技術であって誰でも自由に使える技術を意味しています。特許出願時に既に公知の技術(自由技術)について特許がなされている場合には、本来特許すべきでなかったものに特許がなされたことになります。したがいまして、このような技術に対して特許権の行使を認めるべきでない点では異論がありません。このような場合は、過誤登録なので、本来は無効にすれば済む話なのです。
しかしながら、過誤登録であるにもかかわらず無効にできない場合があるのです。この場合において、権利行使を認めないための理由付けをどうするかという点が問題となります。この問題は、現実にドイツで生じていました。

2.自由な技術水準の抗弁(Einwand des freien Stand der Technik)

ドイツ特許法は、特許権に除斥期間を認めていた時期があります(1941年に廃止)。除斥期間とは、特許権が発生して一定期間経過したら、法的安定性の観点により無効にできないとする期間です。したがいまして、除斥期間の経過後は、特許出願時に既に公知の技術について特許がなされていても無効にできないのです。
この問題については多くの学説が存在していたようですが、裁判所は、法的安定性や三権分立の問題から、その適用に消極的だったと聞いたことがあります(未確認)。いずれにしても法改正(除斥期間の廃止)によって、どうでもよい話となってしまったかのように思えますが、そうはなりませんでした。

3.フォルムシュタイン抗弁(Formstein-Einwand)

フォルムシュタイン判決において、文言の範囲を超えて権利行使を認める均等論が認められました。均等論が文言の範囲を超えて権利行使を認めるが故に、特許出願時に公知の技術が文言の範囲内に入らず無効にできない場合が生じたのです。これにより、上述の法改正前と同じ問題が生じえる状況となることが予測されました。
しかし、ドイツ連邦最高裁は、この問題を踏まえて、自由な技術水準の抗弁の考え方に倣ってフォルムシュタイン抗弁を導入した上で均等論を認めたのです。
したがいまして、フォルムシュタイン抗弁は、自由な技術水準の抗弁とは前提が相違し、均等の範囲で認められます。このため、均等の範囲を想定せず、文言の範囲で認めようとする自由な技術水準の抗弁とは相違することになります。したがって、特許出願時に公知の技術が文言の範囲内である場合には、自由な技術水準の抗弁とは相違し、フォルムシュタイン抗弁が認められず、連邦特許裁判所に対して無効訴訟を起こすしかありません。

4.自由な技術水準の抗弁とフォルムシュタイン抗弁の対比(その1)

自由な技術水準の抗弁とフォルムシュタイン抗弁の上述の説明をチャートにすると以下のようになります。

自由な技術水準の抗弁とフォルムシュタイン抗弁のチャート(その1)
自由な技術水準の抗弁とフォルムシュタイン抗弁のチャート(その1)

5.自由な技術水準の抗弁とフォルムシュタイン抗弁の対比(その2)

自由な技術水準の抗弁とフォルムシュタイン抗弁の実態をチャートにすると以下のようになります。フォルムシュタイン判決は、欧州特許条約(EPC)発効後(すなわち、EPC議定書第69条とのハーモナイゼーション後)の特許法第14条(保護の範囲:Schutzbereich、1981年制定で1978年1月1日まで遡及適用)に基づく判決であるのに対し、自由な技術水準の抗弁は、それ以前(1977年12月31日まで)の一般的発明思想(Allgemeiner Erfindungsgedanke)に基づく広い権利範囲を想定しているからです。

自由な技術水準の抗弁とフォルムシュタイン抗弁のチャート(その2)
自由な技術水準の抗弁とフォルムシュタイン抗弁のチャート(その2)

6.日本における自由技術の取り扱い

日本においては、フォルムシュタイン抗弁は採用されましたが、自由な技術水準の抗弁は採用されなかったようです(私見)。ドイツと同じですね。次回は、この点について掘り下げていきます。

藤岡隆浩

弁理士・知的財産翻訳検定試験委員
日本弁理士会 欧州部長および国際政策研究部長を歴任