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翻訳コラム

COLUMN

第112回同一の訳文ができてもよいか

2017.08.17
弁理士、株式会社インターブックス顧問 奥田百子

翻訳者としては、翻訳の著作権が気になることが多いです。他人の翻訳と同一になってしまってはまずい、ということです。翻訳は原文を訳したものであるから、翻訳者が書いた文章ではありません。特に特許や技術翻訳など産業翻訳は専門用語の訳が決まっており、この単語をこう訳してみようという自分流の訳が入り込む余地が少ないです。誰が訳しても同じ訳文ができる場合もあります。
しかしそれでも一字一句違わぬ訳ができることはあり得ません。2つの原文を1つの訳文にまとめて訳すこともあります。したがってたとえば技術論文を翻訳する際に、たまたまインターネットで日本語訳が見つかったからといって、それをそのままコピーしてはダメです。
そしてさらに文芸翻訳では翻訳者は小説を書けるくらいの文才が必要である、といわれているくらい訳の表現は豊かであり幅があります。
「Lanuitde Saint-Germaindes-Pre′s」(サンジェルマン殺人狂騒曲)というフランス語の原書を2人の翻訳者が訳し、一方が他方を翻訳の複製であると主張して提訴した事件があります。
この事件で東京地裁は、原告が独創的であると主張する自身の訳は独創的でなく、辞書に載っている訳である、誰が訳しても同じようになるため、被告の訳は原告の訳の複製ではないと判断しています(東京地裁、昭和59(ワ)11837号)。
「同一の原書の翻訳文の間では、内容や用語自体の多くが同一の表現となることは、むしろ当然」であるということです。たとえば、
“disputait"を原告は「興じていた」と訳し、被告訳も同じです(通常の訳は「争っていた」)。
しかし、これは客とバーテンダーがサイコロ(ダイス)で賭けをしている場面であり、「争っていた」を「興じていた」に変えて訳すのは訳者として当然であるから、原告独特の訳ではないと被告は主張しています。
訳にばらつきのありがちな文芸翻訳でも、このように訳が同一になっても仕方がないといわれるのですから、産業翻訳ではなおさら訳が同一になることが多いでしょう。

翻訳

Translators frequently care about translation copyright, which means that the same translation as another person's translation shall not be permitted as the translation of the original text was not written by the translator. Especially, an industrial translation such as for a patent or a technical translation is definite, and excludes a translator's own translation. Every translator may translate in the same way.
Nevertheless, a word-for-word translation cannot be made. Two sentences may be translated into one sentence. Therefore, a Japanese translation accidentally found on the Internet cannot be copied.
Literature translators may require talent to translate novels, which means that literature translation has broad and rich expressions.
In the case of “La Nuit de Saint-Germain-des-Pres", two translators translated this French novel, and one translator insisted that the other person's translation was a copy.In this case, the Tokyo District Court judged that the Plaintiff's translation, which it insists was an original, was not ‘original' as found in the dictionary, and judged that the Defendant's translation was not a copy of the Plaintiff's translation (Tokyo District Court, Showa 59(wa)11837).
“It is rather natural that translations of the same original text have the same expressions or terms in most parts". For example,
“Disputait" was translated as “enjoyed" by both the Plaintiff and Defendant (this term is typically translated as “contested").
As with such a scene where a customer and a bartender make a bet on a dice, translators naturally use the word “enjoyed" rather than “contested", which the Defendant does not regard as the Plaintiff's original translation.
Literature translation, which may frequently vary, is judged to be the same. Industrial translation will be even more similar.

奥田百子

東京都生まれ、翻訳家、執筆家、弁理士、株式会社インターブックス顧問
大学卒業の翌年、弁理士登録
2005〜2007年に工業所有権審議会臨時委員(弁理士試験委員)

著書

  • もう知らないではすまされない著作権
  • ゼロからできるアメリカ特許取得の実務と英語
  • 特許翻訳のテクニック
  • なるほど図解著作権法のしくみ
  • 国際特許出願マニュアル
  • なるほど図解商標法のしくみ
  • なるほど図解特許法のしくみ
  • こんなにおもしろい弁理士の仕事
  • だれでも弁理士になれる本
  • 改正・米国特許法のポイント