はい。誤訳や訳ぬけ、ケアレスミスはもちろんですが、「間違っていなければよい」というスタンスではなく、翻訳者によって訳されたものがより良くなるよう、表現修正を重ねていく仕事です。リーダビリティを高めることにも焦点を当てています。そのため、意外と時間がかかります。
例えば法務などの産業分野では、その業界の専門家を読者と想定しているケースが多いので、まずその業界自体、業界で使用されている用語・言い回しをしっかり押さえることからはじまります。その上で業界に通じている方々が読んでもぎこちなさを感じない、論理的な文章に仕上げていく、というのが仕事の概要です。単に言葉を置き換えるだけでは、違和感があったり、不自然で分かりにくかったりしますので、それを回避することが非常に大切です。そのためにまず、原文と訳文を突き合わせて確認しながら、適宜修正を加えます。修正の過程でケアレスミスが生じる可能性がありますので、さらに対訳でチェックします。その後に訳文のみを読んでみて、すらすらと読める文章になっているか、すっと頭に入っていく文章になっているかを確認します。素読みの時点で頭の中に「?」が浮かぶと、何かが不自然であったり、こなれた文章になっていなかったりするので、再度原文に立ち戻って確認して、訳文を調整しています。
同じです。日本語は主語がなくても通じますが、それをそのまま英語に置き換えるだけでは英文として成り立ちません。逆に英語には主語、目的語がしっかり入っているので、全ての単語をそのまま日本語に訳すとくどくなってしまいます。その言語として、その内容に適した自然な文章にすることが重要になってきます。また、原文は受動態で書かれていても、文章の流れから訳文は能動態に変えるなどして、読み手の思考をストップさせないような訳文に仕上げるよう、常に工夫を凝らしています。当然ながら読者は訳文のみを読むので、訳文を読んだときに向こう側に原文が透けて見えるような、いかにも「翻訳文」では、読み手がすっと理解できる文章にはなりません。たとえ意味が通じるものであっても、読者に意味を考えさせるような文章では、良い翻訳とは言えませんので、試行錯誤を重ねながら訳文を作成しています。
翻訳者と同等以上の語学力・翻訳スキルが必要だと思います。さらに調査能力も必要です。調査力も重要なスキルの一つなのです。
チェッカーも翻訳者と同様、文書の内容に関する調査を徹底的に行った上で、全体を最適な翻訳に仕上げ、品質を向上させていくことが求められています。
いくら優秀な翻訳者であっても、人間ですから全くミスがないということはありません。万全を期すためにもチェックのプロセスを入れることは重要ですし、翻訳の品質を底上げするためにも必要な過程だと思います。チェッカーは翻訳者が訳した翻訳の完成度を高めて、翻訳の品質を向上させる役割だと思っています。
翻訳者から上がってきた訳文に対して入れる修正のさじ加減が難しいと思います。チェッカーの質が問われるのは、加える修正に対する見極めができているかどうかです。キャリアが浅いと、本来なら修正が必要なのに翻訳者を信じすぎて修正を行わなかったり、逆に手を加えすぎてしまったりしてしまうことがあるようです。
自分の頭の中にある知識に頼らず、その業界ではどのように表現されているか、どのような言い回しが適切なのか、その業界のスタンダードをとことん調査することが必要です。そのため「調査が7割」という案件もあります。修正を加えるか加えないかは、「調査」によって判断することになるかと思います。
チェック作業は翻訳の品質に左右されるので一様にこなすことはできませんが、先ほど申し上げたように、原文と訳文を突き合わせてチェックして、その後2回目の対訳チェックを行い、その上で訳文のみを素読みするというプロセスを行うと、ある程度の品質を担保することができると思います。
チェッカーの仕事は細かくて、相当忍耐のいる仕事ですが、翻訳者の訳文をチェックしながら勉強することもできるのです。鳥肌が立つようなすばらしい翻訳を見かけるときもあります。翻訳が好きだからやっている仕事ですので、もちろん楽しみながら作業しておりますし、品質を守る上でなくてはならない非常に重要なポジションですので、とてもやりがいを感じています。
さらに、AIが踏み込みにくい領域ではないかとも思っています。現状ではAIからはコーパスを超えるものは出てきません。それを超える、ある意味感動を与えることのできる翻訳を生み出すことができるのは人間にしかできないのでは!と思います(笑)。今後チェッカーの仕事は減ることはなく、むしろ需要が増えていくのでは、と期待しています。