THINK POSITIVE
TRANSLATION
Erica
Williams

翻訳は、創造的な答え探し

翻訳者 エリカ・ウィリアムズ
PROFILE
米国ワシントンD.C.出身。米国ウイリアム・アンド・メアリー州立大学(人文学部・英文科)卒、英国オックスフォード大学セントキャサリンズカレッジ(人文科学部・英文科)留学、米国バージニア州立大学大学院(人文科学研究科)修了(修士号(英文学)取得)。翻訳のほか、2014年にPaper Crane Agencyを立ち上げ、パブリッシングコンサルタントとして国際的な版権ビジネスの現場で活躍中。

日本の絵本を世界へ

エリカさんは翻訳業のかたわら他のビジネスもされていますね。

おもに日本の絵本の版権を海外にセールスするエージェンシーでもあります。日本の絵本はバラエティに富んでいて、素晴らしいものがたくさんあります。もっと世界の子供たちに知ってもらいたい。日本の出版社は、意外に自社のコンテンツを海外に紹介していないなと、最初はちょっとびっくりしました。

社名は「ペーパークレーン」、つまり折り鶴ですね。日本から世界へ飛び立っていくようなイメージ…。

はい。「ペーパークレーン」では版権セールスのほか、デザインの本やファッション関係の本などビジュアルを主体にした本の制作にも参加しています。

「ペーパークレーン」では翻訳をすることもあるのですか。

はい。出版社に本を紹介するときにサンプルとして翻訳を付けるのですが、どんなに作者が有名で素晴らしい作品でも、その翻訳が良くなければ出版社の目を引きません。編集者はとても忙しいため、作品の善し悪しを素早く判断します。そこで翻訳を訴求力の高いものにしないといけませんから、責任重大です。

翻訳者 エリカ・ウィリアムズ

クリエイティブには人の手が必要

翻訳をするうえでのポリシーは何ですか。

一番大切だと思っているのは、元の言葉のニュアンスに近づけて翻訳することです。でもそれはとても難しいことでもあります。オリジナルの原稿がとても良い文章なら、翻訳した文章も同様に良い文章であるべきです。ですから、ただ原稿の内容や情報を外国語に置き換えるだけでは不十分で、元の文章の意味と同じ意味の表現を見つけなければいけないし、原文の文化的な背景なども忘れてはいけません。その点、日本語を英語に翻訳するときは苦労しますね。言葉や文章にたくさんの意味や文脈、ニュアンスが含まれていて、決められたワード数のなかで原文にぴったりなフレーズを見つけることは難しく感じることも多いです。

エリカさんにとって良い翻訳、悪い翻訳とは。

たとえば機械翻訳の文章が読者にとって不自然に感じられるように、日本語の文章をただ直訳しただけでは読者は違和感を持つし、そのような文章は避けたいですよね。反対に、良い翻訳というのは、オリジナルの文章だと思われるようなものではないでしょうか。そしてそこには、元の原稿のニュアンスや意味がすべて含まれているような翻訳だと思います。

そのあたり、機械翻訳はまだまだ及びませんね。

コンピューターはとても優秀ですが、それを使う人のほうに言葉のセンスが求められます。翻訳者が翻訳するときと同じです。たとえば広告のキャッチコピー。日本の広告のコピーは素晴らしいものが多いです。でも機械翻訳にかけると、直訳が出てきて英語として違和感を覚えたり、まったく違う意味になっていたりします。そこで、さあ、正しい英語表現は何だろう…と考えるのはすごく楽しいです。広告やセールス関係の翻訳の仕事は、いつも楽しみながら進めています。本当にワクワクします。

AI翻訳は優秀になりましたが、翻訳者も翻訳会社もAIに仕事が奪われると心配に思うことはありません。なぜなら、AI翻訳はあくまで内容を簡易的に知るための手助けにしかならないからです。でも、クリエイティブに関わるものは常に編集者やチェッカーなど人間の手が必要になってきます。

翻訳作業で気をつけていることは何でしょう。

翻訳においてどんな場合でも創造性という側面は必要です。たとえ道路標識であっても、元言語のメッセージをしっかり伝えるために創造性は翻訳者に必要なものですよ。私は翻訳の仕事を引き受けている間は、お皿を洗っているときでもフレーズについて無意識に考えています。ただの答え探しだけれども、とても創造的な答え探しです(笑)。

私は日本に住んでいるので、英語が常に周りにある環境にはいません。けれども翻訳者の仕事の一部として、英字新聞を読んだり、英語のwebサイトをリサーチして、原稿のテーマが英語圏ではどのように表現されているのかを調べています。たとえどんなに簡単な翻訳でも、仕事をするときは常に学んで、そして創造力を駆使しています。

日本語のカタカナ言葉は奥が深い

インターブックスからも、ずいぶんいろいろなお仕事をお願いしています。

翻訳のお仕事でお世話になるようになって半年ぐらいした頃、ファッションカタログのお仕事をいただきました。私は10代の頃や学生のときにファッション雑誌を見るのが好きだったので、とてもワクワクし、実際、翻訳作業中は本当に素晴らしい時間を過ごすことができました。

1つ印象に残っていることがあります。日本のファッション業界ではもともとの英語と同じような意味で使われている言葉やフレーズがたくさんありますが、「ワンピース」という言葉はそれまで一度も聞いたことがありませんでした。ドレスだということはわかりましたが、どう訳せばよいか、しばらく考えこんで、Shift Dressとして訳しました。Shift Dressというのはストレートドレスのようなものです。

機会に恵まれて、翌年同じファッションカタログの依頼があり、ワンピースはシンプルにDressと訳せば良かったのだと気づきました。小さな出来事ですが、私にとってはもっともっと日本語を学んだり言葉のセンスを磨いたりしなければいけないと感じた瞬間でしたね。

われわれ日本人は、和製英語をけっこう使っていますからね…。

それと、訳文を読む人のすべてが英語のネイティブスピーカーではないかもしれず、なかにはヨーロッパやアジアなど非英語ネイティブの読者がいるかもしれないことにも留意が必要でした。英語圏の文化になじみがない人にも服の魅力が伝わるように翻訳するのはとても難しかったです。

ファッションのお仕事のなかでも、セールス関係の翻訳は特におもしろいですね。なぜなら、企業やデザイナーがどのようにお客様にアピールしたいのかを考えながら翻訳するからです。おかしな翻訳ではお客様に違和感をもたれてしまって、アピールポイントがうまく伝わらないでしょう。ですから、正しいことはもちろん、訴求力がある英語に翻訳できるかどうかが勝負です。

プロフェッショナルな翻訳コーディネーターに助けられる

スタッフに対するリクエストがありましたら、伺いたいと思います。

インターブックスのスタッフのみなさんには本当にたくさんのお仕事でお世話になってきました。チェッカーのみなさんはなかなか厳しく見ているなと思います。私が間違っていることも、そのままでよいこともあるのですが、細かいところにチェックが入って驚くときがあります(笑)。

一昨年の年末には、電子機器のカタログのチェックをお引き受けしました。私たちはクリスマスが一大イベントで、それまでが多忙ですが、日本のみなさんはクリスマスのあとのお正月の方が重要なイベントで、ちょうどいろいろと忙しい時期だったのではないでしょうか。でも、あのときのコーディネーターは、私が質問をするといつもすぐに対応してくれて、仕事がスムーズに進んで助かりました。いろいろと頭を抱えることも多く、最初から自分で翻訳するよりもたいへんでしたが、コーディネーターの協力を得て、年明け直後に納品することができました。無理をしていただいたのではないかなと、たいへん申し訳なくも思いましたけれど…。とてもプロフェッショナルなお仕事ぶりに感謝の気持ちでいっぱいでしたね。

翻訳者 エリカ・ウィリアムズ
PHOTOGRAPH
國𠮷 理恵
LOCATION
BUNDAN COFFEE & BEER