ご依頼をいただく案件は翻訳を中心とした案件と編集制作を含む案件があり、私は両方を兼務しています。後者は、書籍や官公庁の報告書、最近はやはりインバウンド向けの各情報媒体などが多いです。印刷・出版まで行って納品する案件のほか、webサイトの多言語ローカライズのご依頼も増えています。社内にデザイナーやDTPオペレーターが在籍しているため、コミュニケーションも即応的で、翻訳業務との連携もシームレスに行えます。
日本語版と同様のページネーションで外国語版を制作する場合、デザインの方向性をもとに、タイトルや写真キャプションの配置、各言語に適したフォントスタイルを選択します。翻訳者とも仕上がりのデザインイメージを共有し、必要に応じて翻訳テキストもレイアウトに合わせて編集していきます。翻訳部門と編集制作部門の緊密な連携によって実現できることです。
日本語を他言語に単に置き換えるだけでは、レイアウトからテキストがあふれてしまったり、マージンスペースがデザインに影響することがあります。例えば日本の伝統文化を紹介する原稿の場合、固有名詞を外国人の方に伝わるように補足説明する必要があります。その際、翻訳テキストも必然と長くなり、デザインやレイアウトにも影響します。あらかじめプロジェクトの立ち上げからクライアントと編集方針を共有した上での最適な工程管理が重要になってきます。
プロジェクト開始時の丁寧なヒアリング、テクニカルな面でのフォローアップになります。希少言語は、使用するIllustratorやInDesignのスタイル設定をはじめ、外国で印刷入稿する場合のデータ仕様などを検証していく必要があります。これも長年、弊社で培ってきた多言語DTPのノウハウがあるからこそ実現できるのです。
言語ごとに組版のルールが異なり、スタイルのトレンドも様々です。また、DTPのアプリケーションも定期的にバージョンアップが行われており、その仕様を把握し実装することが必要です。特殊な言語の場合には、使用フォントやスタイルを適切に設定していないと入稿データのエラーの原因になります。その他、その言語にとって適切な組版であるか否かは、単なるテキストの流し込み作業だけでは判断がつきません。それを解消するためには、テキストの領域とデザインの領域を融合させ、翻訳者やデザイナーと共に完成に至るまで協働していく必要があります。段階的なプロセスを経る必要はありますが、チームで業務を遂行していく醍醐味でもあります。
翻訳コーディネーターは、クライアントと社内外スタッフとのハブと位置付けています。クライアントのご要望をまず優先して刈り取る、そして最適解となる実施体制を構築することが仕事の本質だと思います。そのためには、マルチタスクの中での状況把握、効果的なスタッフ配置等のロードマップの設計が必要となります。編集制作の知識はもちろんですが、コミュニケーションと各工程の包括的な進行管理が必須です。取りまとめる力=「編集力」が求められるのではないでしょうか。
そうですね。例えば、アニュアルレポートはクライアントの年次の成果、業績を対外に示すとても重要な報告書です。近年、SDGs(持続可能な開発目標)に準拠した企業活動が求められており、またESG(環境・社会・ガバナンス)を配慮した報告内容へと変遷しています。これを外国語版へ展開していくには、クライアントが訴求したい内容を丁寧に読み解き、クライアントと常に目線を合わせることが求められます。アニュアルレポートの性質を理解し、翻訳を通してその企業価値の向上を目指します。近年AIや機械翻訳がトレンドではありますが、機微に触れるメッセージや表現の領域に踏み込むのはしばらく先の話だと思います。ご依頼の業種は様々で、情報を事前に収集することはそれなりの準備期間を要しますが、その業界の動向を知る貴重な機会とも捉えています。
その他、弊社が担当している案件として、防衛省防衛研究所の『東アジア戦略概観』等の学術論文や年次報告書があります。日本をはじめとした各国の安全保障、防衛政策が述べられており、係る専門用語や時事、国際情勢に精通している翻訳者と協働でプロジェクトを進行していきます。
また最近は、都道府県の防災・減災ハザードマップの多言語版制作のご依頼も多く受けています。日本に在住する外国人の方々にわかりやすく簡潔に伝えることが重要です。また制作面では、地図や警戒レベルの表示など細かいレイアウトとなっていることも多く、弊社で独自に開発したスクリプトツールを援用することもあります。
喫緊の防衛・安全保障や災害情報等、社会的意義のある施策に翻訳を通して支援させて頂けることは望外の喜びです。今後もクライアントファーストの理念に基づき、編集体制を日々整備し、拡充することによって、あらゆるご要望に応えてまいります。