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翻訳コラム

COLUMN

第133回STAP細胞の論文が

2014.03.13
弁理士、株式会社インターブックス顧問 奥田百子

前回、STAP細胞について話題にしましたが、今や、この論文が大変なことになっています。再現性がない、画像が不自然で合成画像ではないか?別の論文と記載が同じ部分が10行くらいあるとの指摘があり、論文の共著者である山梨大学の若山照彦教授は論文の取り下げを要請しています。
そして更に昨日になって、小保方さんの早稲田大学大学院の博士論文が米国NIH(米国国立衛生研究所)のウエブサイトに記載されていた文章と20ページくらいが同じであったというニュースも流れました。リケジョブームはどうなるのか?リケジョはこのままブームになって欲しいのですが、それよりも私の職業柄もっと注目すべきは、この特許の有効性や著作権の問題です。
といっても、特許は国際特許出願(WO2013/163296)されてはいるものの未だ特許にはなっていません。前回、この出願の国際出願日は2013年4月24日と述べました。これはその通りなのですが、これは2件の米国出願に基づいて優先権主張がされているようで、優先日は最先の出願日である2012年4月24日です。国内移行するのであれば、この日から30ヶ月以内です(前回のブログを訂正させていただきます)。
そして著作権については、この論文がドイツの学者の論文と同一の記載があったとのこと、このとき引用表示(論文名、タイトル名、著者名など)を表示していれば問題にはならなかったのでしょうか?
一概にそうとはいえません。引用表示していればどのように他人の論文を掲載しても良い、というのではありません。引用の必要性がなければいけません。自分の見解を補強するための引用です。また引用する分量も問題になります。何行まで引用はOKというはっきりした基準はありません。自分の見解が大部分で引用2、3行ならOK?と割り切れる話でもありません。もちろん引用する文章が論文の大部分を占めているのであれば、NGの場合は多いでしょう。
要するに自分の見解が主で引用する文章は従である、つまり主従関係があることが必要です。そうすると必然的に分量も引用する文章は論文の一部に過ぎないことになります。
引用の条文を著作権法32条で確認してみましょう。

  1. 公表された著作物は、引用して利用することができる。
  2. 引用は公正な慣行に合致するものであること、
  3. 報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲で行われること。

公正な慣行というのが、自分の文章と、引用される文章で主従関係があること、つまり自分の文章が主で引用される文章が従であること、引用する文章にカギかっこを付けるなどして明確に区分すること、出所の表示(著者名、タイトル名、出版社名など)をすること、引用する必然性があることなどです。
この要件に合致していれば引用となり、著者の許諾は要らないことになります。しかし引用の要件に合致せず、たとえば引用表示なく引用し、しかも著者の許諾を得ずに他人の文章を掲載すると複製権の侵害になります。いわゆる盗作というものです。
自分の日記に他人の文章を引用するのであれば私的使用になりますが、学術論文となると私的使用とはいえません。
では大学に提出する博士論文はどうでしょうか?これももちろん私的使用ではありません。引用の要件に合致すること、これに合致しなければ著者の許諾が必要です。
コピペ(コピー&ペースト)には注意が必要です。たとえば会社の会議に使う資料をインターネットの記事からコピペするのも認められません。大学生がレポートをコピペして作成するのも認められません。

また他人の論文の写真やグラフを掲載するときに、これを合成するなどして改変すると同一性保持権の侵害になります。他人の著作物は著者の許諾なしに手を加えてはならないからです。
ところで万能細胞について再現性がないとの指摘があります。つまりこの論文を見ても万能細胞を作成できないというのです。もしこれが特許出願の明細書の実施例を見ても作製できないというのであれば、特許の再現性なしということで特許性は認められません。再現性は反復継続性に通じるもので、特許の成立要件になります。つまり明細書を見て発明を反復継続して実施できるかということです。これは植物特許について問題となることが多く、米国特許法161条でも

35USC 161 Patents for Plants

"Whoever invents or discovers and asexually reproduces any distinct and new variety of plant, including cultivated sports, mutants, hybrids, and newly found seedlings, other than a tuber propagated plant or a plant found in an uncultivated state, may obtain a patent therefor, subject to the conditions and requirements of this title".

翻訳

米国特許法161条植物に関する特許

「栽培変種、突然変異体、雑種、新たに発見された苗(塊茎増殖された植物又は栽培されていない状態で発見された植物を除く)を含む、いずれかの顕著かつ新規な植物品種を発見、あるいは発見し、かつ無性生殖させたいずれの者も、本条の条件及び要件に従うことを条件として、上記に関する特許を受けることができる。」

と規定しています。"reproduce"が再現の意味になっています。

我が国の「新品種黄桃の育種増殖法」に関する判例でも反復継続性について、低い確率であっても桃を再現することが可能であるとされています(平成12年2月29日、平成10年(行ツ)19号、最高裁)。つまり確率は低くても再現性が認められれば反復性はありとの判断です。
今しがたSTAP論文について撤回の必要なしと米国のハーバード大のチャールズ・バカンティ教授が述べているとのニュースも入ってきました。STAP細胞の運命は?

ちょうどこんな時に「もう知らないではすまされない著作権」(奥田百子監修、中央経済社)が3月19日に発売されます。

今週のポイント

  • STAP細胞の論文が再現性がない、画像が不自然で合成画像ではないか?別の論文と記載が同じ部分が10行くらいあるとの指摘があり、論文の共著者である山梨大学の若山照彦教授は論文の取り下げを要請している。
  • 小保方さんの博士論文が米国NIH(米国国立衛生研究所)のウエブサイトに記載されていた文章と20ページくらいが同じであったというニュースも流れている。
  • この発明の特許は国際特許出願(WO2013/163296)されている。この出願の国際出願日は2013年4月24日である。これは2件の米国出願に基づいて優先権主張がされているようで、優先日は最先の出願日である2012年4月24日であり、国内移行するのであれば、この日から30ヶ月以内である(前回の訂正)。
  • 日本の著作権法32条では引用につき、
    1. 公表された著作物は、引用して利用することができる。
    2. 引用は公正な慣行に合致するものであること、
    3. 報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲で行われること
    という要件を定めている。
  • 公正な慣行というのが、自分の文章と、引用される文章で主従関係があること、つまり自分の文章が主で引用される文章が従であること、引用する文章にカギかっこを付けるなどして明確に区分すること、出所の表示(著者名、タイトル名、出版社名など)をすること、引用する必然性があることなどである。
  • 万能細胞について再現性がないとの指摘がある。つまりこの論文を見ても万能細胞を作成できないという指摘がある。もしこれが特許出願の明細書の実施例を見ても作製できないというのであれば、特許の再現性なしということで特許性は認められない。
  • 我が国の「新品種黄桃の育種増殖法」に関する判例でも反復継続性について、低い確率であっても桃を再現することが可能であるとされている(平成12年2月29日、平成10年(行ツ)19号、最高裁)。つまり確率は低くても再現性が認められれば反復性はありとの判断である。
  • STAP論文について撤回の必要なしと米国のハーバード大のチャールズ・バカンティ教授が述べているとのニュースも入ってきている。

奥田百子

「もう知らないではすまされない著作権」(奥田百子監修、中央経済社)3月19日発売!

東京都生まれ、翻訳家、執筆家、弁理士、株式会社インターブックス顧問
大学卒業の翌年、弁理士登録
2005〜2007年に工業所有権審議会臨時委員(弁理士試験委員)

著書