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翻訳コラム

COLUMN

第143回ネーミングライツ

2014.05.22
弁理士、株式会社インターブックス顧問 奥田百子

アメリカにはネーミングライツという権利があることを命名権のニュースで知りました。ネーミングライツも命名権も知らない、という人は多いでしょう。東京スタジアムが味の素スタジアムになりました。味の素が命名権を取得したからです。そして鎌倉の3つの海水浴場(由比ガ浜、材木座、腰越)の命名権を鳩サブレーで有名な豊島屋が取得したのが、1年前です。そしてこのたび名前は変えないことになりました。豊島屋は名前を公募した結果、名前を変えないでほしいという意見が多かったからです。
ネーミングライツとは、スタジアムなど主に公共施設に命名する権利です。スポンサーとなる企業がこれを購入します。この費用で施設側は財源を確保し、施設の修繕などに当てることができます。命名権を取得したスポンサー企業は、企業名の知名度をアップし、スポーツ試合などの無料チケットを社員に供給するなど福利厚生にも役立てることができます。
うまくできている制度ですが、今回の鎌倉の海の件では、豊島屋は豊島屋海水浴場とか、鳩サブレー海水浴場とせずに、名前を公募しました。年額1200万円もの対価を支払っておきながら、名前は全国の人々の意見を聞いたのです。そのうえ皆さんの意見を通して名前を変えないことにしたうえに、1200万円は清掃費用にとおっしゃっているそうです。
本当に鎌倉を愛している企業、社長さんの行動です。命名権購入ではなく、清掃費用を寄付したのと同じです。
神奈川県でもネーミングライツパートナーを募集しているのをウエブサイトで見かけました。命名権とは知的所有権でしょうか? いま知的所有権でなくても、知的所有権に分類される日が来るのでしょうか?
商標は知的所有権であるし、商号もこれに分類されることがあります。しかし命名権は資金提供のために社名を施設に命名するのだから、知的所有権とは違うと思います。商標は商品名に「こういう名前をつけよう」という選択行為が、人間の知的創作であるゆえ、知的所有権とされます。そして商標には自他商品識別機能があります。つまり自社の製品・サービスと他社の製品・サービスを区別する機能です。
しかしそもそもスタジアムや海水浴場は商標でいう商品やサービスではありません。従来からの味の素などの商標をスタジアムにつける権利です。商標もハウスマーク(House mark)つまり会社の基本となる商標(商号から構成される商標など)を主力でない製品に登録することはあります。命名権も同様に考えることはできます。たとえば電機メーカーがハウスマークを海水浴場の海の家というサービスに付けるようなものです。
しかし命名権は目的が自社と他社の商品やサービスの識別ではなく、知名度アップや企業イメージ向上のために名前をつける権利ですから、そこに選択行為はなく、知的所有権ではないと思います。

今週のポイント

  • 鎌倉の3つの海水浴場(由比ガ浜、材木座、腰越)の命名権を鳩サブレーで有名な豊島屋が1年前に取得した。豊島屋は名前を公募した結果、名前を変えないでほしいという意見が多く、海水浴場の名前は従来通りとなった。
  • ネーミングライツとは、スタジアムなど主に公共施設に命名する権利である。スポンサーとなる企業がこれを購入し、施設側はこの費用で財源を確保し、施設の修繕などに当てることができる。命名権を取得したスポンサー企業は、企業名の知名度をアップし、スポーツ試合などの無料チケットを社員に供給するなど福利厚生にも役立てることができる。
  • 命名権は目的が自社と他社の商品やサービスの識別ではなく、知名度アップや企業イメージ向上のためであるから、そこに選択行為はなく、知的所有権ではないと考える。

奥田百子

東京都生まれ、翻訳家、執筆家、弁理士、株式会社インターブックス顧問
大学卒業の翌年、弁理士登録
2005〜2007年に工業所有権審議会臨時委員(弁理士試験委員)

著書

  • もう知らないではすまされない著作権
  • ゼロからできるアメリカ特許取得の実務と英語
  • 特許翻訳のテクニック
  • なるほど図解著作権法のしくみ
  • 国際特許出願マニュアル
  • なるほど図解商標法のしくみ
  • なるほど図解特許法のしくみ
  • こんなにおもしろい弁理士の仕事
  • だれでも弁理士になれる本
  • 改正・米国特許法のポイント