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翻訳コラム

COLUMN

第222回日中相互理解

2015.01.21
通訳・翻訳家 伊藤祥雄

僕は自分で翻訳することももちろん多いのですが、他の人の訳したものをチェックする仕事もやります。主に中国語ネイティブの翻訳者が訳した日→中訳をチェックします。

これは、中国語ネイティブの翻訳者が元の日本語を正しく中国語に訳しているかどうかをチェックする仕事です(だから中国語自体にケチをつけたりはしません…笑)。

この仕事をしていると、日本語と中国語は、本当に訳すのが難しいなと感じます。

日本語は、論理関係などはあまり重視しないのですが、中国語は論理関係がしっかりしていないと見聞きしている人が「???」となってしまうようです。

たとえば、ある学校の先生へのインタビューの中のこんな言葉

「(子供たちの心に)頑張ったという思い出が残ってくれたらいいなと思います。」

これをある中国人がこんなふうに訳していました。

希望他们能记住这些教训。
xī wàng tā men néng jì zhù zhè xiē jiào xùn
(直訳)彼らがこれらの教訓を記憶に刻んでくれるよう希望します。

「頑張ったという思い出」が「教训」と訳されているので、ちょっと大げさかなぁと思いますよね。しかも「思い出が残ってくれたら」というのが「记住(記憶に刻み付ける)」と訳されているのも、ちょっと大げさに感じます。

でも、中国語としてはこれで多分いいのでしょうね。日本語はこういう時、とてもやんわりしています。頑張ったという思い出が残って、大人になってから「ああ、あの時は頑張ったな〜」と思い出す程度でいいわけですが(笑)、中国語としてはそれで終わっては意味が無いと考えて、「頑張ってやったことから何か教訓を見つけてそれを今後の人生に生かしてほしい」という意味だと、そこまで掘り下げて訳さないと、中国人は納得しない、ということなのでしょう。

これは、単なる機械的な翻訳ではないですね。文化というより、思考回路の違い。日本人は教訓を生かすというところまでは普通の生活の中では考えない。思い出で十分。でも中国人はそれでは物足りないみたいです。もう少しやんわりと

希望他们能记住自己曾经努力过。
xī wàng tā men néng jì zhù zì jĭ céng jīng nŭ lì guo
(直訳)彼らが、自分がかつて頑張ったということを記憶に刻んでくれるよう希望します。

こんなふうに訳してもいいと思いますが、中国人の発想としては、恐らく前者の訳のほうが自然なのではないでしょうか。

先日、東日本大震災で大きな被害を受けた気仙沼の「斉吉商店」の話題を扱った文章の中国語訳をチェックしていました。元の日本語が最初「斉吉商店コーポレーション」というような名前になっていたのが「斉吉商店」と訂正されていたのですが、翻訳者にはそれが伝わっておらず、そのまま「齐吉商店股份有限公司」と訳されていたので「股份有限公司」の部分を削除しました。

すると、その後の文章で「(斉吉商店の)加工工場が津波に流されて云々」というくだりが出てきたのです。

中国語で「商店 shāng diàn」はあくまで「お店」です。お店に「加工工場」があるのは、かなりおかしいことなのですね。中国語としては。

日本語ってこの辺は結構便利です。あ、日本語が便利というより、日本人の思考が柔軟というか、悪く言えばイイカゲンというか(笑)。「商店」となっていても「加工工場」と出てくれば「ああ、商店だけど加工工場を持っているんだな」と勝手に想像して納得して先を読み進めていくでしょう?

でも中国語の場合、結構つっかかってしまう人が多いようです。

ですから、ここは「一家叫齐吉商店的食品加工企业(斉吉商店という名の食品加工企業)」というように訳してもらいました。加工工場を持っている以上、単なる「商店」ではなく「企業」であるべきだからです。この辺、中国語は結構シビアです。

逆に中国語を日本語に訳す時は、このような苦労はあまりありません。中国語がかなりしっかりした論理構造を持っているので、そのまま日本語に訳せば日本語として論理構造がしっかりした文章になるだけですから(笑)。

もちろん、通訳の場であれば、中国語を日本語に直訳すればかなりきつい表現になることも多いので、やんわり訳す必要はあります。例えば中国人が断定口調で言っていても日本語では「〜と思われます」などちょっと柔らかくしたりしています。特に友好的な雰囲気の場面ではそうしています。

逆に日本語を中国語に訳す時は、言っていることが分かるように単刀直入な言い方にする必要があります。それとな〜く、遠まわしに言っても中国人には分かりませんので(笑)。

特に翻訳では、言葉の勢いや顔の表情が見えませんので、中国語に訳す時は言葉だけで分かってもらわないといけません。ですから、余計に論理関係や言葉遣いには気をつけなくてはならないでしょうね。

今回は分かりやすい例を挙げましたが、もっと微妙なものもあり、最近中国人と日本人は本当に分かり合えるのだろうかとさえ思うようになってきました。

日本人と中国人の垣根を本当に取り去ることができるのは、もしかしたら帰国子女のような人たちなのかもしれません。最近は日本に住む中国人が日本で子育てしていることも多いので、こういう「日本で育った中国人」にひそかに期待している伊藤祥雄です(笑)。

伊藤祥雄

1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了

通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当

著書

  • 文法から学べる中国語
  • 中国語!聞き取り・書き取りドリル
  • CD付き 文法から学べる中国語ドリル
  • 中国語検定対策4級問題集
  • 中国語検定対策3級問題集
  • ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本

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