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翻訳コラム

COLUMN

第253回水を買ってきます

2015.08.26
通訳・翻訳家 伊藤祥雄

先日中国人と日本語で話していて、ふと気付いたことがありました。

彼は日本には結構長くいて、日本語は非常に達者な人です。彼からくるメールには、日本人の僕でも使ったことのない格調高い表現が使われていることもあり、この人は教養人だなーといつも感心しています。

そんな彼なのですが、時々「ちょっと水を買ってきます」と言ってその場を離れて行くことがあります。

いや、別にちっともおかしくないですよね?そういうことは日本人だってよく言います。

でも、先日ふと気付いたのです。彼が「水を買ってきます」と言ってどこかへ行った後、帰ってくる彼の手には、たいていお茶のペットボトルが握られていることに。

ものすご〜く細かいことなのですが、我々日本語ネイティブの場合、「水を買ってくる」と言う時、頭の中ではミネラルウォーターのような所謂「水」を買ってくる、ということが想定されていると思います。もちろん途中で「やっぱりお茶を買おう」とか、気がかわることはあるでしょうが、少なくとも「水を買ってくる」と言った時点では、ミネラルウォーターを買うつもりでいるのではないかと思います。

中国人のその彼も、もしかしたら自販機の前で急に気がかわってお茶を買った可能性も無くはないのですが、毎回「水を買ってきます」と言いつつお茶を買ってくるので、もしかしたら、これは中国語の影響ではないかな?と思ったのです。

中国語の「水 shuĭ」は、日本語の「水(みず)」と全く同じ意味ではありません。

たとえば、前にもメルマガで書いたように、日本語では「みず」の温度がある程度高くなると「お湯」と言ってしまうので、「みず」という言葉は温度が低い状態のものしか指しませんよね。でも中国語の「水 shuĭ」は沸騰してもあくまで「水」です。

沸騰しているお湯であることをはっきり示したい時は

开水
kāi shuĭ

と言いますし、シャワーを浴びる程度の熱さであれば

热水
rè shuĭ

と言いますが、いずれも「水」という字を使っていますよね?

実は、中国語の「水 shuĭ」は、温度の差を気にしないだけでなく、さらに広い概念を表しているようです。そうですね、おそらく日本語の「水分」とか、下手したら「液体」というようなくらいの意味なのかもしれません(ちょっと言い過ぎかもしれませんが…笑)。

例えばオレンジジュース。最近は「橙汁 chéng zhī」という言葉をよく聴きますが、昔はよくこんなふうに言っていましたよね?

桔子水
jú zi shuĭ

炭酸飲料の総称は、次のように言ったりしますよね?

汽水
qì shuĭ

最近はあまり「汽水」なんて聴かなくなったような気もしますが、僕が留学していた20数年前は、手軽に安く飲めるジュースと言えば黄色い炭酸飲料くらいで、みんなそれを「汽水」と言っていましたっけ(笑)。

こういう表現を見ると、「水shuĭ」って日本語でいう「みず」だけの意味ではないような気がするのです。もしかしたら飲み物一般を指すのかも…。そんな気さえしてきます。

冒頭でご紹介した中国人が「水を買ってきます」と言いながら「みず」ではない飲み物を買ってくることが多いのも、そんな理由からなのではないかなーと思う今日この頃です。

伊藤祥雄

1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了

通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当

著書

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