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翻訳コラム

COLUMN

第276回既知の情報は前

2016.03.02
通訳・翻訳家 伊藤祥雄

先日、NHKのテレビ中国語講座を久しぶりに見てみると、天気予報の話題が出ていました。

曰く、天気の言い方は動詞が前に出るとのこと。つまり:

下 雨
xià yŭ
雨が降る

下 雪
xià xuě
雪が降る

打 雷
dă léi
雷が鳴る

日本語だと「雨」や「雷」のような気象現象が主語になって、その後に動詞が来ますが、中国語では反対に並んでいますね。

ところが、「雨がやんだ」というのはこんな風になります。

雨停了。
yŭ tíng le

そう、「雨」が動詞「停」の前に入っていますね。

このことについて、放送では、存在していなかった雨がこれから降るような場合は動詞の後ろ、すでに降っている雨がやんだ、という場合は、動詞の前に「雨」が入ると説明していました。

また、このことをもっと一般化して、「新しく出てきた現象は動詞の後」「古い現象は動詞の前」と覚えましょう、とも。

放送では、「気象現象を表す文の場合はこうなります」というようにおっしゃっていましたが、実は中国語では、気象現象を表す文でなくてもこうなる傾向にあります。例えば:

那里有餐厅。
nà li yŏu cān tīng
あそこにレストランがあります。

日本語だと「レストラン」が主語になっていますが、中国語では「餐厅」は動詞の後に入っています。気象現象を表す文と同じですね。

で、たとえば「あそこにレストランはありません」だと上の文を単に否定形にするだけなので、

那里没有餐厅。
nà li méi yŏu cān tīng

となります。つまり相変わらず「餐厅」は動詞の後にあるのですが、「あのレストランが無くなった」というのであれば、

那个餐厅没有了。
nà ge cān tīng méi yŏu le

となります。そう、「餐厅」が動詞の前にありますね。ここでは「那个餐厅」と言っており、あるはずのレストランが無くなったことを述べているわけです。つまり、この「那个餐厅」は話し手や聞き手にとっては「既知の情報」、つまり中国語講座の言い方を借りると「古い」情報なのですね。そういうものは動詞の前に行くのですね。

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他にもこんな例を見てみましょうか。

我吃面包了。
wŏ chī miàn bāo le
私はパンを食べた。

これはふつうの文ですから、「パン(面包)」という目的語は動詞「吃」の後に入ります。しかし、「あのパンなら俺が食ったよ」というような感じなら、こんなふうになるかもしれません。

那个面包我吃了。
nà ge miàn bāo wŏ chī le

つまり「あのパン」と言っているのでそのパンは話し手や聞き手にとって「既知の情報」です。その場合は先に言ってしまうということがよく起こるのですね。

英語なら目的語になるべきものは絶対に目的語の位置(動詞の後)に入るのですが、中国語はそのあたりが流動的で、よく「中国語はいい加減だ」「中国語って適当でいいんでしょ?」「中国語には文法なんかないんだね」などと言う人がいますが、そうではないのです。英語とはまた別の文法概念に支配されているのだということを肝に銘じたいですね。

伊藤祥雄

1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了

通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当

著書

  • 文法から学べる中国語
  • 中国語!聞き取り・書き取りドリル
  • CD付き 文法から学べる中国語ドリル
  • 中国語検定対策4級問題集
  • 中国語検定対策3級問題集
  • ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本

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