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翻訳コラム

COLUMN

第295回子音「r」も不思議

2016.07.20
通訳・翻訳家 伊藤祥雄

先日本欄で、聴覚が万能ではないという話をしました。

それについてある読者の方が「r」の音も不思議だという感想をお寄せ下さいました。

その読者の方は、次の単語の発音について書いておられました。

然后
rán hòu

そう、「その後」というような意味の単語ですね。この単語が「ランホウ」ではなく「ヤンホウ」と聞こえてしまい、最初意味が分からなかったのだそうです。

「ヤンホウ」と言っている本人にも確かめたそうですが、本人は「ヤンホウ」と言っている自覚はなかったそうで、ますますお困りだったでしょうねぇ。

おっしゃる通り、子音「r」は「y」のように発音する人がいますね。僕の知る限りでは、南の方の人の中国語で聞かれるような印象があります。

皆さんは中国のかけあい漫才ってご存知でしょうか?

相声
xiàng sheng

と言いますね。この「相声」の大御所コンビの演技で、南方人の真似をして笑いをとるようなくだりがありました。この時ボケ役の方がこんなふうに言いました。

我是南方人,南方人。
私は南方出身です。南方の出です。

この「南方人」の「人」という字、ふつうなら「rén」と読みますが、この時は中国南方出身の人の発音を真似して「イエン」というような発音をしていました。つまり「ナンファンイエン」という感じですね。

すると、会場中大爆笑です。

方言を取り上げて笑いをとるのは、今の日本では自虐ネタとしては成立しますが、ちょっと問題視されそうですね。でも当時の中国では大丈夫だったのでしょう。まぁそれはともかく、このことから一つ分かることがあります。

つまり、子音「r」を「y」のように読む傾向が中国南方にはあり、それを北京の人はよく知っているということです。

「r」が「y」になるなんて不思議に思うかもしれませんが、そのメカニズム(?)はそんなにアクロバティックでもありません。「r」は巻舌音(そり舌音)ですから、舌先を立ててこもった感じの音を出すわけですが、この舌先の立て具合が甘い、もしくは全く立っていない状態で声を出すと「y」のような音になります。ちょっとご自分で舌の立て具合を色々変えてみて実験してみてください。中国南方の人の気持ちになれるかもしれません(笑)。

また、きれいな標準発音の人でも「r」は人によって「ジャ ジ ジュ ジェ ジョ」のような有声摩擦音のように発音する人がいます。(もちろん日本語の「ジャ ジ ジュ ジェ ジョ」よりもっとこもった感じの音ですけどね。)

これは「r」を発音する時の舌先の位置が口蓋(口の中の天井部分)に近すぎて、そこを空気が通る時に舌先と口蓋が微妙に触れ合って摩擦が起こっているのだろうと思います。

本人たちは違う音とは思っていないと思いますが、我々には違う音に聞こえてしまいがちですよね。これはもう、沢山の中国人とお話して、それぞれ癖のある中国語を聞いて慣れていくしかないと思います。アナウンサーとばかり話しているわけではありませんのでね〜。

最後に僕がまだ北京に留学していた時の体験談を一つ。春節の休みの時に洛陽(洛阳 luò yáng)に行ったのですが、帰りの列車の切符が大雪のためなかなか取れず、ホテルの切符手配カウンターで色々交渉していた時、同じように切符が取れなくて困っていた香港人グループと少しお話しました。その時、その香港人が、软卧(ruăn wò グリーン寝台のこと)という語彙を言ったのですが、その時の彼女の発音はこんなのでした。

アンウォ

本当に、何を言っているのかさっぱり分からず、困った覚えがあります。

「r」って、外国人のみならず中国人や香港人でも、うまく発音できない人もいるのですねぇ。

伊藤祥雄

1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了

通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当

著書

  • 文法から学べる中国語
  • 中国語!聞き取り・書き取りドリル
  • CD付き 文法から学べる中国語ドリル
  • 中国語検定対策4級問題集
  • 中国語検定対策3級問題集
  • ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本