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翻訳コラム

COLUMN

第198回本当の発音

2014.07.30
通訳・翻訳家 伊藤祥雄

伊藤がNHKの短波放送ラジオジャパンに出入りしているのは、ご存知の方も、、、多くはないかな?(笑)実は出入りしているのですね。中国語の番組作ったりアナウンサーの真似事をしたりしています。

ここには中国人のアシスタントが数人働いています。みんなアルバイトで、ほとんどはどこかの大学で勉強中の留学生です。

以前いたあるアシスタントさん、実は以前「テレビで中国語」(NHKのテレビ中国語講座)に出ていたという話だったのですが、先日たまたま彼女の出ているところを見る機会を得ました。

見た目もかわいいですし、ちょっと舌足らずな日本語もかわいいので、大変な人気者なのだろうな~と思いつつ見てみたのですが、、、ちょっと面白いことを発見しました。

その中で、ianのことを少し解説していました。

「この真ん中の a は、「エ」に近くなりますよ。」

そうですよね。そのとおりだと思います。例えば「天 tiān」は「ティエン」のような発音になりますし、「钱 qián」は「チエン」のように発音します。「ティアン」や「チアン」と発音する生徒さんがいると、「え?そんな発音でしたっけ?」と嫌味たらしく指摘するのが僕の日常になっています(笑)。

ところが、この日のテレビ中国語講座では、アシスタントの彼女は実際の発音のお手本を「イアン」と聞こえてしまうような発音で言っていたのです!

例えば「眼 yăn」は、僕の日本語耳では明らかに「イアン」と聞こえました。

発音の解説では「イエン」と言いつつ、実際のお手本では「イアン」のように発音してしまったら、混乱しちゃうじゃないですか。番組を作っているディレクターとかは、疑問に感じなかったのでしょうか。

でも実は、中国人には無理からぬことと思います。

ianという鼻音は、普段は僕たちの耳にはどう聞いても「イエン」と聞こえる発音ですが、実はネイティブの人たちにとっては、aaなのですね。だからゆっくり発音すると、ianも「イアン」というような発音になってしまうのでしょう。

実際の会話等で「イエン」と聞こえるのは、「イ」と「ン」に挟まれると口の中が狭くなるので、間の「ア」が本来の広さを保てずに「エ」になってしまう、いわば偶然の産物なのです。

だから、ネイティブたちは、ianは「イエン」と発音しなければ、と思っているわけではなく、本当は「イアン」と言うつもりなのだけど自然と狭くなって「イエン」に近い音になっているだけなのでしょう。ゆっくり発音すると、本来の「ア」の広さを確保することができるので、「イアン」に近い音になってしまうのです。

ちょっと似ているのが「个 ge」という言葉の発音です。

皆さんもおそらくよくご存知、一番よく使う量詞ですね。「一個二個」の「個」という意味です。

この「个 ge」は普段軽声で発音しますね。例えば:

三个人 sān ge rén 三人の人
四个巧克力 sì ge qiăo kè lì 四つのチョコレート

しかしこれもネイティブの人にゆっくり発音してもらうと、次のように発音する傾向にあります。

三个人 sān gè rén
四个巧克力 sì gè qiăo kè lì

そう、本来の声調である第4声で読まれるのです。

これも我々外国人には不思議な感じに聞こえますね。

中国人の頭の中では、別に「軽声」という確固とした枠組みがあるわけではないようなのです。普段の会話の中では軽く読んでしまう音節がある、というだけで、ゆっくり発音すると元の声調が戻ることもあるようなのです。

我々は、声調や軽声をかなりしっかりと叩き込まれてきましたが、本場の発音はもっと流動的なのかもしれません。

伊藤祥雄

1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了

通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当

著書

  • 文法から学べる中国語
  • 中国語!聞き取り・書き取りドリル
  • CD付き 文法から学べる中国語ドリル
  • 中国語検定対策4級問題集
  • 中国語検定対策3級問題集
  • ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本