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翻訳コラム

COLUMN

第246回掘ったイモいじくるな

2015.07.08
通訳・翻訳家 伊藤祥雄

英語の分からない人でも英語で話せるように(?)、英語の発音をカタカナで表すこと、よくありますよね。今日のタイトル「掘ったイモいじくるな」は意味のある日本語になっているのがとても面白いですが、何のことかご存知ですか?

What time is it now ?
ホッタイモイジクルナ

どうでしょう。音、似ていますか?(笑)

日本で売っている中国語テキストの中には、カタカナで発音を表記してあるものが結構ありますね。たとえば:

我是日本人。
wŏ shì rì běn rén
ウォシーリーベンレン
私は日本人です。

というように。

しかし、実際の発音と「ウォシーリーベンレン」ではかなり違うので、このまま日本語発音で読んでもさっぱり通じないということが多いですよね。だから僕もこういうカタカナ発音表記は嫌いなのですが、これがあるのとないのとでは本の売れ行きが全然違うそうで(笑)、仕方なく僕も自分の本によくカタカナを書いています。

では、逆に中国語の文字(漢字)で外国語の発音を表記していることってあるのでしょうか。

上で書いた「掘ったイモいじくるな」のようなちょっと面白いものを1つきいたことがありますので、ここでついでにご紹介します。

ロシア語のあいさつで「ダスビダーニャ」というのがありますね。ご存知でしょうか。「さようなら」という意味です。これを中国語でこんなふうに言ったりすることがあるそうです。

打死了大娘。
dă sĭ le dà niáng
(おばさんを叩き殺した)

早口で言ったら通じるかも?(笑)

さて、中国で出版されたとある日本語教材で、あまりにも誤植が多くて有名になってしまったものがあります。今でも伝説のように一部の人に語り伝えられているらしいのですが、ご存知でしょうか。『说日语 shuō rì yŭ』というテキストです。

こちら(http://blog.livedoor.jp/manamoon1/)のブログで面白おかしく紹介されていますので、お暇な時に覗いてみてください。僕なんかは、面白くないことがあった時なんかにここを覗くことにしています。どんなに落ち込んでいても必ず立ち直れます(笑)。

今日注目したいのは、誤植の部分ではなく、日本語の発音を漢字で表記しているところです。なかなか興味深いものがあります。例えば:

こんにちは。
考恩尼七哇
kăo ēn ní qī wā

これ、結構いけますよね。もちろん不自然な発音にはなりますが、通じそうです。よく見てみると、「こんにちは」の「こ」はふつう低い音で始まるので第3声の字「考 kăo」、「ん」は高く発音しますから第1声の字「恩」を使っているらしいことがわかりますね〜。

また「コ」という発音が、中国語にはどうも無いようですね。kougou ならありますが、確かに kogo という音節は中国語にはありません。そこで不思議なのは「口 kŏu」とか「狗 gŏu」を使わずに「考 kăo」を使うことです。

実は中国語の「ao」という二重母音は、「ア」「オ」という二つの母音を続けて言うのではなく、もっと融合しているようです。「アォ」というか、なんというか、カタカナでは書けませんけど。そして、中国人の発音を聴くと、時として「アオ」ではなく「オ」に近く聞こえることもあるくらいです。

別の例を見てみましょう。

失礼します。 西次来衣西吗丝
xī cì lái yī xī má sī

これ、いきなり言われると意味が分からないかも(笑)。

こういうのを見ていて、改めて気づくのは、中国語には「エ」という音が無いんだなぁということです。「失礼(シツレイ)」の「レ」の音を表す漢字がないのですね〜。だから「来 lái」という字を「レ」のつもりで当てています。他にもこんなのがありました。

元気です。
盖恩克医代丝
gài ēn kè yī dài sī

これは絶対通じませんよね(笑)。それはともかく、「元気(ゲンキ)」の「ゲ」や「です」の「デ」の処理に苦労しているのが垣間見られます。いずれも「gai」「dai」と、「ai」という二重母音で「エ」という音を表そうとしているのが分かりますね。

実は、中国語の「ai」という二重母音、多くの日本人が「アイ」というふうに発音してしまうのですが、実は結構「エ」に近いのですよね。少なくとも「アイ」ではなく「アェ」という感じでしょうか。カタカナでは書ききれないのですが、「ア」と「イ」が融合して不可分な状態になっているのです。

中国人が日本語の「オ」という母音を聴いて「ao」、「エ」という母音を聴いて「ai」という二重母音を思い浮かべるというのは、何か示唆的です。逆に我々が中国語を発音する際、「アオ」「アイ」とはっきり2つの母音のように発音するのはダメだということがわかりますね。

この『说日语』の漢字による日本語発音の表記、分析すると我々の中国語発音を磨くヒントになるかもしれません。誤植を見て大笑いした後は、漢字の発音表記を見ながら中国語の発音の研究をしてみませんか?

伊藤祥雄

1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了

通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当

著書

  • 文法から学べる中国語
  • 中国語!聞き取り・書き取りドリル
  • CD付き 文法から学べる中国語ドリル
  • 中国語検定対策4級問題集
  • 中国語検定対策3級問題集
  • ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本