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翻訳コラム

COLUMN

第259回ネイティブの弱点

2015.10.14
通訳・翻訳家 伊藤祥雄

日本人が外国語を学ぼうと思う時、「ネイティブから直接学びたい」と思う人が非常に多いように思います。

某外国語専門学校のうたい文句でも「先生はみんな外国人」というのがありましたよね。これが売り文句になるわけですから、日本人が「やっぱり外国語はネイティブに教えてもらわなくっちゃ」と思っていることがよく分かります。皆さんもそう思っていますか?

しかし、それはなんとも言えません。

英語なら、日本では誰もが中学時代から習っているので大人はある程度の基礎はあるはずですから、ネイティブから学ぶ意味は大いにあります。

しかし別の外国語を大人になってから1から勉強するのであれば、話は別です。

ネイティブって、意外と自分の母語について分かっていないものなのです。

試しに、日本語ネイティブの皆さんはどのくらい日本語のことを分かっているか、考えてみましょうか。

例えば、中国語の「这 zhè」や「那 」について教える時に、たいてい「这」は「これ」、「那」は「それ、あれ」というふうに教えていますし、多くのテキストではそのように訳語が書いてあります。でもそんな単純なものではないので、そもそも日本語の「これ」「それ」「あれ」はどういうふうに使い分けているのかを生徒さん(日本人)に尋ねてみるのですが、結構分かっていません。日本語ネイティブなのにです(笑)。皆さんは分かりますか?

「これ」と「あれ」は簡単ですね。「これ」は自分の近くにあるものを指す言葉。「あれ」は自分の遠くにあるものを指す言葉。

では「それ」は?

多くの人はうまく説明できないようです。時には「遠くも近くもない中くらいの位置にあるものを指す」とか答える人もいるのですが、実はそうではありません。

実は「それ」は、自分の話している相手の近くにあるものを指す言葉なのです!

多くの生徒さんは、目を輝かせて「ほんとだ〜!」というような顔をします(笑)。

ですから、「私」と「相手」が近くで話している時、「私」が「相手」の手元にある消しゴムを指して「ねぇ、それってどこで買ったの?」と尋ねたとします。この場合、日本語だと、消しゴムは相手の近くにあるから「それ」を使うのですが、その消しゴムは自分にとっても近くにあるものですから、中国語では「那」ではなく「这」を使うわけです。

つまり、「这」であっても「これ」ではなく「それ」と訳した方がいい場合も多々あるというわけです。

日本人にとって難しい有気音と無気音を教える時、我々日本人だって無意識に有気音や無気音を使っているということを実感してもらうことにしています。

たとえば「パンダ」という時の「パ」の音は、少し息が鋭く出ていて、中国語でいう有気音に近くなっています。

それに対して「カッパ」という時の「パ」は息がほとんど出ていません。中国語でいう無気音に近くなっています。

語頭の清音は息が結構鋭く出るので有気音的、小さい「ッ」の次に来る清音は息がほとんど出ないので無気音的になる、というような法則が、どうやら日本語の発音にはあるようです。

でもこんなこと、普通の日本語ネイティブは知りませんよね。僕だって最近知ったところです(笑)。

だから、日本人だからといって日本語のこと何でも知っているかというと、そうではないのです。
逆に言うと、中国人から中国語の手ほどきを受けることが必ずしもいいこととは言えないのです。もちろん中国語のことをよく研究している中国人の先生もいますから、中国人から教わってはならないと言っているわけではありません。でも、日本人から教わるメリットも、かなり大きい、いや、むしろ入門期は日本人から教わった方がいいかもしれません。

伊藤祥雄

1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了

通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当

著書

  • 文法から学べる中国語
  • 中国語!聞き取り・書き取りドリル
  • CD付き 文法から学べる中国語ドリル
  • 中国語検定対策4級問題集
  • 中国語検定対策3級問題集
  • ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本