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翻訳コラム

COLUMN

第340回三国志(笑)

2017.06.14
通訳・翻訳家 伊藤祥雄

すみません。どうもいいネタが思いつきません(笑)。というわけで、久しぶりに三国志関連です!

これまでも何度かご紹介したことのある三国志関連の言葉ですが、成語が多いのかなと思うと、これが意外と「歇后语 xiē hòu yŭ」の方が多い印象です。「歇后语」についてはこれまでも何度か説明していますが、ご存知でしょうか?簡単に説明しておきますと、「歇后语」というのは前半で謎をかけて、後半で謎解きをするというもので、通常は前半しか言いません。で、その心は?ということで後半部分は相手に想像させるというものです。ちょっとした言葉遊びです。つまり、成語よりちょっと庶民的なのでしょうね。三国志の物語は明の時代に講釈師が庶民相手に楽しく語ったお話ですから、庶民に親しまれてきたのでしょう。

さて、今日皆さんにご紹介したいのは、こんな「歇后语」です。

曹操吃鸡肋
cáo cāo chī jī lèi
曹操が鶏肋(ニワトリのあばら骨)を食べる

その心は?

食之无味,弃之可惜
shí zhī wú wèi, qì zhī kě xī
食べるに味はなく、捨てるには惜しい

三国志の中のクライマックスと言われる赤壁の戦いの後、色々紆余曲折はあったものの、劉備(刘备 liú bèi)はとうとう蜀(蜀 shŭ)の地域(現在の四川省辺り)を取ることに成功し、さらに蜀の北に位置する漢中(汉中 hàn zhōng)という地域の攻略に乗り出します。漢中は当時すでに曹操(曹操cáo cāo)の領土となっていたので、劉備と曹操との戦いとなりました。

ここで曹操はことごとく裏をかかれて、負け続けます。そんなある日の夕食に、ニワトリのあばら骨が入っていました。曹操は思います:

「正に今の私の心境である。ニワトリのあばら骨は食べても美味しいと思えるほどの肉はついていない。でも捨てるにはまだ味がある。漢中の地は、捨てるには惜しい。しかし死力を尽くして戦って守るほどでもない。とはいえ、もし退却すれば人々は笑うであろう。さてどうしたものか。」

そんなことを考えながら食事をしている時に、部下が「今夜の警備の合言葉はどういたしましょうか」と尋ねてきました。曹操は色々考え事をしていたので、何気なく「鶏肋、鶏肋」とつぶやき、それがその日の夜の警備の合言葉となってしまいました。

それを聞いた曹操配下の切れ者と評判の楊修(杨修 yáng xiū)という男、たちどころに曹操の心の内を見透かして、兵たちに帰り支度を命じます。

曹操がそれを知ると、自分の弱気な心の内を見透かされた、という嫌な気持ちになり、楊修をその場で殺し、翌日無理に打って出て、結局また大敗。漢中はとうとう劉備のものとなるのでした。

「鸡肋」という言葉は今でも「わざわざ手に入れるほどの値打ちはないが捨てるには惜しいもの」というような意味で使われ、こんな成語もあります。

如嚼鸡肋
rú jiáo jī lèi
まるで鶏肋をしゃぶるようなものだ

漢中という地は、曹操にとっては「多くの犠牲を払ってまで守るべきではないが、捨てるには惜しい」という程度の地で、それほど重要ではなかったようですね〜。蜀にとっては、ここを取っておくと長安など魏の本丸に進出しやすくなりますから、「鶏肋」どころではなく「ステーキ」くらい美味しい土地だったのでしょうけど(笑)。

さて、この「鶏肋」にまつわる故事は、朝鮮半島にも伝わっていたようで、僕の大好きな『宮廷女官チャングムの誓い』という韓国ドラマの中にも出てきていました。まだ宮廷に入ったばかりの幼いチャングムたちが、女官見習いになるために様々な作法や知識を教えられ、それをテストされるのですが、その時チャングムに出された問題の内の1つがこの故事でした。

こんな難しい問題はさすがに答えられないだろうと誰もがドキドキしている時に、チャングムは涼しい顔をしていとも簡単に「鶏肋です!」と答えます。胸がスカっとするシーンですね(笑)。

三国志って、中国国内だけでなく朝鮮半島や日本にまで影響を与えているのですから、本当に影響力が大きいですねぇ。

伊藤祥雄

1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了

通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当

著書

  • 文法から学べる中国語
  • 中国語!聞き取り・書き取りドリル
  • CD付き 文法から学べる中国語ドリル
  • 中国語検定対策4級問題集
  • 中国語検定対策3級問題集
  • ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本