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翻訳コラム

COLUMN

第370回演繹とな?

2018.02.07
通訳・翻訳家 伊藤祥雄

先日ある日本の歌の歌詞の内容を中国語で伝えたものを読んでいて、あれ?と思いました。

"爱人 àirén"という単語が使われていたのですが、これが「恋人」という意味で使われていたからです。

"爱人 àirén"が「愛人(あいじん)」という意味でないことは皆さんもご存知ですよね?日本語と中国語の違いを述べるエッセイなどでもよく取り上げられる単語なので、中国語を本格的に勉強していない人でもご存知かもしれませんね。

そう、「奥さん」「ご主人」というような意味、配偶者を表す言葉です。日本語でいう「愛人(あいじん)」の意味はありませんよね。

でも"爱人 àirén"という単語が「恋人」という意味で使われていたのでちょっとビックリしました。ま、辞書を見てみると、「恋人」の意味も載せている辞書も結構あるので、要するに伊藤が不勉強だっただけなのですがね(苦笑)。

文章を書いた本人とその場にいた人(いずれも中国人)にこの件について尋ねてみました。「"爱人 àirén"って奥さんとかご主人っていう意味じゃないの?恋人という意味もあるの?」というふうに。

すると、「あ〜、確かにね〜。でも、『愛しい人』というようなニュアンスもありますので。。。」との答えでした。

しかも、こういう叙情的な文だと"情人 qíngrén"はふさわしくないしね〜、とも。

ふ〜ん、そうなんだ〜(笑)。

こういうの、辞書には細かい説明がたいていは載っていません。こうやって質問すると細かいことが分かっていいですね。

また、同じように以前日本の歌謡曲について説明している文を見て、ちょっとビックリしたことがあります。とりあえず、その問題の文(?)を書いてみますね。

《秋樱》这首歌诞生于1977年,在山口百惠的演绎下,一时风靡歌坛。
《qiū yīng》 zhè shŏu gē dànshēng yú yī jiŭ qī qī nián,
zài Shānkŏu Băihuì de yănyì xià,
yìshí fēngmĭ gētán.

『秋桜』は1977年の歌で、山口百恵さんの「演繹」により、一時一世を風靡しました。

ここで"演绎(演繹)"という単語が出てくるのです!

日本語では「演繹」なんて言葉は論理学の授業とかで出てきた覚えはありますけど、普段あまり使う言葉ではありませんよねぇ?

日本語の辞書を見ると、1つの事柄から他の事柄に意義を押し広めて述べることを「演繹する」というのだそうです。なんだかピンときませんが(笑)、明らかに証明されている事象を使って他のことを証明するような場合に使うような、そんなだったような、気がします(笑)。

日本語ではそういう論理学的な場合にしか使わない言葉ですが、中国語では、1つの事柄から別の事柄へと広めていくというところから、例えば芸術作品を創作する場合などに、1つの題材から芸術作品へと発展させることを"演绎 yănyì"と言ったりもするようですね。

そして更に、こういう歌謡曲の話でも、中国では"演绎 yănyì"という言葉を使うのです!

つまり、『秋桜』という作品は1つの楽曲でしかありませんが、それを山口百恵というアーティストが歌うことで他にはない作品になるわけですよね。他の人が同じ歌を歌ったら、また別のものになります。1つの楽曲が、実際に歌手に歌われることで1つの作品に生まれ変わる、それが"演绎 yănyì"なのかな、と思いました。

これを、ニュアンスまで含めて的確に簡潔に日訳するのは難しいですねぇ。「山口百恵さんの歌として世に出、一時一世を風靡しました。」というふうに逃げるしかないかもしれません。

"演绎(演繹)"なんて言葉が歌謡曲の話で出てくるなんて、中国語はやっぱり面白いですねぇ!これだから中国語はやめられない!(笑)

伊藤祥雄

1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了

通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当

著書

  • 文法から学べる中国語
  • 中国語!聞き取り・書き取りドリル
  • CD付き 文法から学べる中国語ドリル
  • 中国語検定対策4級問題集
  • 中国語検定対策3級問題集
  • ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本