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翻訳コラム

COLUMN

第395回使役か受け身か

2018.08.01
通訳・翻訳家 伊藤祥雄

先日、中国語検定の過去問を見る機会がありました。最近の傾向を探るために過去10回分ほどを色々眺めていたのですが、こんな文に遭遇しました。

我不想让他知道我的名字。
Wŏ bù xiăng ràng tā zhīdào wŏ de míngzi.

なんてことはない、使役(〜させる)の文ですよね〜。

使役の文は英語とそっくりな語順を取ります。つまり:

主語+使役動詞+動作主+動詞

例えば「彼は私を中国に行かせる」だったら、

他+让+我+去中国。
Tā ràng wŏ qù Zhōngguó

となります。使役動詞は、よく使われるのは“让 ràng"“叫 jiào"などがあります。

さて、冒頭に出した文は、使役動詞の前に“不想(〜したくない)"という助動詞の否定形がくっついていますが、基本は同じことですね。では、日本語訳は、というと、、、

「私は彼に私の名前を知られたくない」

と書いてありました。

最初は全く気にもなりませんでしたが、よく考えると、日本語は「受け身」で訳されていますね!

“让 ràng"は上にも書いたとおり使役動詞ですから「〜させる」と訳すはずです。だから冒頭の文を使役の意味で訳すと「私は彼に私の名前を知らせたくない」となるはずです。

でもこの「私は彼に私の名前を知らせたくない」という日本語を中国語に訳すと、多分僕なら次のように言うでしょうね。

我不想告诉他我的名字。
Wŏ bù xiăng gàosu tā wŏ de míngzi.

そう、「知らせたくない」と言うのであれば“告诉 gàosu(告げる、知らせる、教える)"を使う方が自然な気がします。

では、冒頭の文と、この“告诉 gàosu"を使う文とでどう違うのでしょうか。

後者“告诉gàosu"の文は、話者の意志が感じられる気がしますね。「自分から彼に名前を言うようなことはしたくない」という感じでしょうか。

それに対し前者“让 ràng"の文は、「彼が自分の名前を知っているような状態にしたくない」という感じでしょうか。つまり、自分からはもちろん言わないが、他の人から漏れてしまうような状態も嫌だと言っているような、そんな気がします。

“让 ràng"などの使役の文は「〜させる」だけでなく「〜するように言う」「〜しろと言う」と訳すこともありますね。例えば:

老师让我坐下。
Lăoshī ràng wŏ zuò xia.
先生は私に座るように言いました。

これはもしかして、「先生は私が坐るような状態にした」と言えませんかね?つまり使役の文とは「〜するような状態を作る」「そういう状態にする」というところから来ているのではないかと。

そう考えると、冒頭の文は「私は『彼が私の名前を知っている』という状態にしたくない」という意味になります。これは、自分から積極的に相手に名前を知らせるだけでなく、人から漏れ伝わるような状態も作りたくないということになります。

そんなわけで冒頭の文は、「知らせたくない」ではなく「知られたくない」と訳した方がピッタリくるように思うのではないかな、と思いました。

こうやって考えると、使役と受け身って、全く別物と思っていましたが、意外と似ているのですね〜。そう言えば、使役動詞としてよく使われる“让 ràng"も“叫 jiào"も、受け身の用法もありましたね。ややこしくなるので今日は触れませんが、又いつか使役と受け身を整理したいなと思いました。

伊藤祥雄

1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了

通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当

著書

  • 文法から学べる中国語
  • 中国語!聞き取り・書き取りドリル
  • CD付き 文法から学べる中国語ドリル
  • 中国語検定対策4級問題集
  • 中国語検定対策3級問題集
  • ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本

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