第406回“在”の話
2018.10.25
通訳・翻訳家 伊藤祥雄
“在”の話
某大学の中国語の授業で使用しているテキスト、薄くて小さなテキストなのですが、内容は意外とぎっしりなのです。1つのレッスンの中で結構たくさんの文法事項が出てきたりしますので、学生たちはしんどいのではないかな~と思ったり。
先日の授業で、動作の場所を表す“在zài”が出てきました。「~で」という意味を表す言い方ですね。
このテキストではもうすでに別の用法で“在zài”という単語が出て来ています。それである学生さんが不安に思ったようで「他の用法とどう見分ければいいか教えてください。」と質問してきました。
なるほど、これは結構いい質問かもしれません。というわけで、メルマガでも書いてみる気になりました(笑)。
まず、“在zài”にはどんな意味・用法があるかというと、主に以下の3つの用法があると思います。
1、動詞(~にいる、ある)
2、前置詞(介詞)(~で)
3、動作の進行(~しているところだ)
今日は3番目の「動作の進行」を表す“在zài”については置いておき、1と2について見てみます。
- 動詞の“在zài”
- 次のような構造の文を作ります。
- S + 在 + 場所
- 例:他在图书馆。
tā zài tú shū guăn
彼は図書館にいる。
“图书馆”という単語の後は特に何もありません。文末の語気助詞が来ることくらいはありますが、名詞や動詞のようなしっかりした意味のある言葉は来ません。このような場合、この“在zài”は動詞として振る舞います。
2、前置詞の“在zài”
次のような構造の文を作ります。
S + 在 + 場所 + V(+O)
例:他在图书馆看书。
tā zài tú shū guăn kàn shū
彼は図書館で本を読む。
“他在图书馆…”ここまでは1の用法の例文と全く同じですね。でも2の場合はその後に“看(見る、読む)”という動詞が出てきます。
そうなると、あわれ“在zài”は動詞の座を追われ、意味が薄くなり、前置詞になり下がってしまうのです(苦笑)。
つまり、“在+場所”の後に更に別の動詞が来た場合は、“在zài”は「~で」という意味の前置詞として振る舞うわけですね。ですから1と2の見分け方は、“在+場所”の後に他の動詞があるかどうかだ、ということができます。
述語になれるような動詞が文の中に1つしかない時は、当然ながらその動詞が我が物顔で(?)その文の中の「述語」として君臨できるわけですが、後ろに別の動詞が来たら、前の動詞はその座を奪われてしまう、、、これってどこかで見たことのある光景ですね。
そう、連動文です。例えば:
我坐飞机去大阪。
wŏ zuò fēi jī qù dà băn
私は飛行機に乗って大阪に行く。
この文には述語になれる動詞が2つありますね。“坐(飞机)”と“去(大阪)”です。このような、1つの主語に対して2つ以上の述語が並ぶ文を連動文と言うのですよね。
もし“我坐飞机”までで文が終わっていたら、この文の最も重要な動詞は当然“坐(飞机)”です(文意:私は飛行機に乗る)。
でもその後に別の動詞“去(大阪)”が来てしまったら、“坐(飞机)”は単なる「手段」を表す成分になり下がってしまいます(苦笑)。それが証拠に、もし経験を表す助詞“过guo”をつけるとしたらどちらの動詞につけますか?
我坐飞机去过大阪。
私は飛行機に乗って大阪に行ったことがある。
ね。後ろの動詞“去 qù”にくっつけるのです。それに人によってはこの文は「飛行機に乗って」ではなく簡単に「飛行機で」と訳す人もいるでしょう?そうなるともう、この“坐 zuò”は限りなく前置詞に近くなります。
こう考えると、前置詞の“在 zài”を含む文も、元々は連動文だったのかもしれませんね。
今日の話題は、「こんなこと知ってるよ」と思う人も多いような気がしますが(笑)、教える立場になった時に参考にしていただければと思います。
伊藤祥雄
1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了
通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当
著書
- 文法から学べる中国語
- 中国語!聞き取り・書き取りドリル
- CD付き 文法から学べる中国語ドリル
- 中国語検定対策4級問題集
- 中国語検定対策3級問題集
- ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本