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翻訳コラム

COLUMN

第411回論理の飛躍

2018.12.26
通訳・翻訳家 伊藤祥雄

色々な人からよく指摘されるので、皆さんご存知だろうと思いますが、日本語ってあいまいな表現が多いですよね。

それに結論まで言わずに、相手に分かってもらおうとすることが結構ありますよね。これもよく指摘されることです。

何度か本欄でも書いていますが、以前中国人ピアニストの日本滞在中に通訳としてくっついていたことがあり、日本の中国語新聞の記者が取材を申し込んできたことがありました。ですが当日記者は時間を大幅に遅れて到着したのです。ピアニストの受け入れ機関の日本人はヤキモキしながらも「取材終了の時間は伸ばせないので、時間通り取材を終えてもらえるよう、記者の人に『それとなく』伝えてくれませんか?」と僕に頼んできました。

そう、日本の人ってこういう時に相手に嫌な思いをさせないよう、はっきり「時間通りに取材を終えてくださいね」とは言わず、それとなく伝えたいと思うのですよね。それは同じ日本人として僕も分かります。

でもこういう時って、結論をぼかして「それとなく」アレコレ言っても、中国人にはあまり伝わりません。結論をはっきり言わないとダメなのです。中国人ははっきり言われたところで別に気を悪くしません(多分…笑)。むしろ結論をぼかして周辺状況をアーダコーダ言っても伝わらないし、下手すると「何が言いたいの?」とかえって怒りを買う可能性すらあります。

文化の違いですね~。

で、こういったことは僕はすでにすっかり分かっていると思っていました。中国人にははっきり言わないと伝わらない。経緯を説明する時は時間順に、論理的に。相手に想像させるとか、言わなくても分かるでしょ?という日本の文化は通用しない。ええ、知ってますとも、伊藤はその辺は大丈夫。。。

と、思っていたのですが、、、先日改めて中国のこういう文化を思い知る出来事がありました(笑)。

中国人たちと一緒に喋っていた時、その内の1人(女性)が「日本語ってすごいですよね」と言いだしました。

彼女は日本人男性と結婚していて、小さなお子さんが1人います。で、その日の朝、ご主人が保育園の先生に渡す連絡帳にこんなことを書いたそうです。

「朝起きた時はママに甘えてぐずぐず言っていましたが、ご飯は食べました。」

どうですか、皆さん。日本語ネイティブなら別になんとも思わない普通の日本語だと思いませんか。

でもこれは中国人的には、どうしてこんなことが言えるのか分からないのだそうです。「ぐずぐず言う」ことと「ご飯を食べる」ことは、全く別のこと。どうしてこれを逆接の接続詞「が」でつなげられるのかと、すごく違和感があるのだそうです。

僕が「だって、ぐずぐず言っていたらご飯もなかなか食べてくれなかったりするのかなと思うけど、『でも』ご飯はちゃんと食べたってことでしょ?逆接じゃん。」と説明すると、「そこを省略されると分からなくなるんですよ!」と言われたのです。

はは~、なるほど!日本人って結論をぼやかしたり省略したりするだけでなく、いろんなところで色々と省略して、相手の想像に頼っているのですね!

今回のことで言うと「ぐずぐず言う」→「ご飯食べないかもしれない」→「でも」→「ご飯は食べてくれた」という論理の流れがあるわけですが、日本人は「ご飯食べないかもしれない」という部分は言わなくても分かるでしょ?ってことで省略してしまうのです!いや、自分では省略しているという意識すらありませんでした。いやいや、ビックリ(笑)。

この事を、日本語教師をやっている友人に言うと、「なるほど、そういうことか」と思うことがあったそうです。

日本語を教える時に使う練習問題で、よくこういうものがあるそうです。

カッコ内に適切な接続語を入れよ。
あのレストランの料理は高い( )、おいしい。

この問題、多くの生徒さん(多国籍、中国人含む)は間違えてしまうのだそうです。「し」を入れてみたり、「高くて」としてみたり、あるいは空欄にしたり。

多分日本語ネイティブなら「が」や「けど」を入れるでしょう?

でも「値段が高い」ことと「味がおいしい」ことは、全然別のことです。だから1つだけ接続語を入れるだけでつなげられるのが信じられないらしいです。

日本語ネイティブの頭の中では、例えばこんなふうに考えていると思います。
「あのレストランの料理は高い(というデメリットがある)が、おいしい(というメリットがあるよね)」

このカッコの部分は言わなくても、日本語ネイティブ同士なら分かるのですね。だからわざわざ言わない。でも、世界の多くの地域では、こういう文化はないので、分からなくなるようなのです。

こういう文化の違い、分かっていないと、中国語を話す時、中国語で文章を書く時に、うまく伝わらない可能性がありますね。僕も改めて意識して、論理の飛躍がないか、相手に想像させようとしていないか、戒めなければいけないなと思いました。

伊藤祥雄

1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了

通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当

著書

  • 文法から学べる中国語
  • 中国語!聞き取り・書き取りドリル
  • CD付き 文法から学べる中国語ドリル
  • 中国語検定対策4級問題集
  • 中国語検定対策3級問題集
  • ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本