- 2026.10.13
- 翻訳外注ノウハウ
【プロが解説!】NDA翻訳で失敗しないために
海外企業との商談、新製品の共同開発、業務提携、M&Aの検討など、ビジネスの重要な局面で交わされることが多いNDA(秘密保持契約書)。海外の取引先から英文NDAを提示されたり、日本語で作成したNDAを英訳して相手方へ送ったりする機会も増えています。
そこで悩みやすいのが、「NDAの翻訳は一般的なビジネス翻訳と何が違うのか」「AI翻訳でも問題ないのか」「英語として意味が通っていれば十分なのか」という点です。
NDAは比較的短い契約書であることも多いため、翻訳の難易度が低いと思われがちです。しかし実際には、「何を秘密情報とするのか」「誰に開示できるのか」「秘密保持義務がいつまで続くのか」「違反した場合にどのような責任を負うのか」など、事業上のリスクに直接関係する条件が凝縮されています。たった一つの限定表現や例外条件を誤訳するだけでも、日本語版と英語版で秘密保持の範囲が変わってしまう可能性があります。
本記事では、NDA翻訳で特に注意したい条項や英語表現、AI翻訳を利用する際の注意点、翻訳会社へ依頼する前に確認すべき事項を、翻訳実務の視点から整理します。「英文NDAを正確に理解したい」「日本語のNDAを海外企業へ提示したい」という企業担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
NDAとは?翻訳前に押さえておきたい基本

NDAは「Non-Disclosure Agreement」の略で、日本語では一般に「秘密保持契約書」または「秘密保持契約」と呼ばれます。
企業同士が取引や共同開発などを検討するときには、正式な契約締結より前に、
- 技術情報
- 製品仕様
- 営業情報
- 顧客情報
- 価格・原価情報
- 事業計画
- ノウハウ
- 未公開の研究開発情報
などを相手方へ開示することがあります。
こうした情報を目的外で使用したり、第三者へ漏えいしたりすることを防ぐために締結するのがNDAです。
NDAには、大きく分けて、一方だけが秘密情報を開示する「片務型」と、双方が秘密情報を開示する「双務型」があります。
そのため、NDA翻訳を始める際には、単に文章を一文ずつ訳すのではなく、まず、
「誰が情報を開示する側なのか」
「誰が秘密保持義務を負うのか」
「双方が同じ義務を負うのか」
という契約全体の構造を把握する必要があります。
ここを取り違えると、文章単位では自然な訳文でも、契約全体として権利義務の関係が崩れてしまいます。
NDA翻訳が一般的なビジネス翻訳より難しい理由

1.一語の違いで秘密保持の範囲が変わる
NDAでは、「秘密情報とは何か」を定義する条項が極めて重要です。
例えば、
「秘密である旨を明示して開示した情報のみ」
が対象なのか、
「口頭で開示された情報も含む」
のか、
「開示方法を問わず一切の非公開情報を含む」
のかによって、秘密保持義務の対象範囲は大きく変わります。
翻訳時に「書面で開示された」という条件を落としてしまえば、本来より広い範囲が秘密情報として読まれる可能性があります。
NDA翻訳では、単語の意味だけでなく、条件・限定・例外を正確に維持することが重要です。
2.主語を誤ると義務を負う当事者が変わる
日本語の契約書では主語が省略されることがあります。
一方、英文NDAでは、
- Disclosing Party(開示当事者)
- Receiving Party(受領当事者)
など、役割を明確にして条文を構成することがあります。
「甲」「乙」を機械的にParty A、Party Bへ置き換えるだけでは、情報を開示する立場と受領する立場が条項によって入れ替わる双務型NDAなどで分かりにくくなる場合があります。
文書全体を読み、誰が何をする義務を負っているのかを理解した翻訳が必要です。
3.法律用語と一般英語の意味が異なることがある
NDAには、
- disclose
- confidential
- proprietary
- affiliates
- representatives
- indemnify
- remedies
- injunctive relief
など、法務文書で特有の意味を持つ表現が登場します。
辞書で最初に表示される訳語を当てはめるだけでは、契約上の意味を十分に伝えられない場合があります。
法務翻訳では「単語を知っている」こと以上に、その言葉が条項の中でどのような法的役割を持っているのかを理解する力が求められます。
NDA翻訳で特に注意したい6つの条項

1.秘密情報の定義(Confidential Information)
NDAで最初に確認したいのが、秘密情報の定義です。
例えば、次のような条件が設定されることがあります。
- 書面で秘密指定された情報
- 口頭で開示後、一定期間内に書面で秘密指定された情報
- 性質上、合理的に秘密と理解される情報
- 電子データ、図面、サンプル等を含む情報
翻訳では、「何が秘密情報に含まれるか」だけでなく、「秘密情報になるためにどのような条件が必要か」を正確に維持します。
2.秘密情報の除外事項(Exceptions / Exclusions)
一般的なNDAでは、秘密情報に該当しない情報も定められています。
例えば、
- 開示時点ですでに公知だった情報
- 受領者の責任によらず公知となった情報
- 開示前から適法に保有していた情報
- 正当な権限を持つ第三者から取得した情報
- 秘密情報を使用せず独自に開発した情報
などです。
ここで特に重要なのが、条件の係り方です。
「受領者の責めによらず」「秘密保持義務を負うことなく」「秘密情報を参照せず」といった表現を訳し落とすと、除外対象が原文より広くなってしまう可能性があります。
3.利用目的(Purpose / Permitted Use)
秘密情報は、「第三者へ漏らしてはいけない」だけではありません。
多くのNDAでは、情報を利用できる目的そのものが限定されています。
例えば、
「本件取引の検討のためにのみ使用できる」
と規定されている場合、その情報を別事業や製品開発に利用することは認められない可能性があります。
翻訳では、開示制限と目的外利用の禁止を混同しないことが重要です。
4.第三者への開示
NDAでは、秘密情報を誰まで共有できるかも重要です。
開示が認められる対象として、
- directors
- officers
- employees
- professional advisers
- affiliates
- contractors
などが列挙されることがあります。
日本語ではこれらをまとめて「役職員等」としている場合もありますが、原文と訳文で対象者の範囲が変わらないよう注意します。
さらに、
「知る必要がある者に限る」
「同等の秘密保持義務を負わせる」
「受領当事者がその者の違反について責任を負う」
などの付随条件も重要です。
対象者だけを正しく訳しても、これらの条件を落とせば、条項の意味は大きく変わります。
5.秘密保持期間
NDAでは、「契約期間」と「秘密保持義務の存続期間」を区別する必要があります。
例えば、NDA自体は2年間で終了しても、秘密保持義務はその後5年間存続するという設計があります。
さらに、営業秘密など特定の情報については別の取り扱いが定められている場合もあります。
翻訳時には、
- 契約の有効期間
- 情報を開示できる期間
- 秘密保持義務が続く期間
- 契約終了後も存続する条項
を整理して確認することが重要です。
6.返還・削除義務
取引検討が終了した場合などに、
「秘密情報を返還する」
「コピーを破棄する」
「電子データを削除する」
と定めるNDAもあります。
その際、
- バックアップデータはどう扱うか
- 法令上保存が必要な情報は除外されるか
- 削除したことを証明する必要があるか
といった条件が付くことがあります。
「return or destroy」を単純に「返却または破棄」と訳すだけではなく、その後に続く例外や手続きまで一体として確認する必要があります。
NDA翻訳で見落としやすい「小さく見えて重要な表現」

NDAでは、長い条項だけでなく、短い表現にも注意が必要です。
特に、
- unless
- except
- provided that
- to the extent
- solely
- only
- reasonably necessary
- without prior written consent
などは、権利や義務の適用範囲を限定します。
例えば、「必要な範囲で」と「合理的に必要な範囲で」、「事前の同意を得て」と「事前の書面による同意を得て」は同じではありません。
AI翻訳や経験の浅い翻訳者による訳では、文章を自然にする過程で、こうした限定語が弱められたり省略されたりすることがあります。
NDA翻訳では、大きな専門用語だけに注目するのではなく、義務の範囲を決める小さな言葉まで確認することが重要です。
AI翻訳でNDAを訳しても大丈夫?

近年では、ChatGPTなどの生成AIや機械翻訳を使って英文NDAを日本語化したり、日本語のNDAを英訳したりするケースも増えています。
AI翻訳は、NDAの概要を短時間で把握する用途では非常に便利です。
例えば、
- 取引開始前に英文NDAのおおまかな内容を知りたい
- 社内検討用の参考訳が必要
- 専門翻訳者が修正するための初稿を作りたい
といった用途では、効率化につながる可能性があります。
しかし、署名・締結するNDAの完成訳としてAI翻訳をそのまま使用する場合は慎重な判断が必要です。
AI翻訳で注意したいポイント
AI翻訳では、
- 条件や例外の訳漏れ
- 定義語の不統一
- 主語の取り違え
- 否定表現の誤認
- 法務用語の一般語への置換
- 原文にない説明の追加
- 自然だが意味の異なる訳文
などが生じる可能性があります。
NDAでは一つの誤訳でも秘密保持義務の対象範囲が変わることがあるため、重要な契約では専門翻訳者による原文との照合が重要です。
NDAの内容そのものが機密情報であることにも注意

もう一つ忘れてはいけないのが、情報セキュリティです。
NDAそのものに、
- 取引予定先
- 開発中の製品
- プロジェクト名
- 担当者情報
- 未公開の事業内容
などが含まれることがあります。
AI翻訳サービスへ入力する場合には、利用サービスのデータ保存、学習利用、アクセス管理などの条件を確認する必要があります。
「秘密保持契約を翻訳するために、秘密情報を不用意に外部サービスへ入力する」という矛盾が起きないよう注意しましょう。
NDA翻訳では「翻訳」と「リーガルレビュー」を分けて考える

NDA翻訳について、「翻訳会社に依頼すれば契約内容も問題ないと確認してもらえる」と考えるのは適切ではありません。
翻訳会社が担うのは、原文に記載された内容を別の言語へ正確に移すことです。
一方、
- この秘密情報の定義で自社を十分に保護できるか
- 存続期間は適切か
- 損害賠償条項を受け入れて問題ないか
- 準拠法をどの国にすべきか
- 相手方から提案された修正を受け入れるべきか
といった判断は、契約条件そのものに関する法的判断です。
必要に応じて、企業の法務部門や弁護士へ相談する必要があります。
特に海外企業との重要な契約では、
専門翻訳会社による翻訳・対訳チェック
+
法務担当者・弁護士による契約内容の確認
という役割分担が有効です。
翻訳と法律判断を適切に切り分けることが、NDAを安全に運用するポイントです。
NDA翻訳を依頼する前に準備したいチェックリスト

翻訳会社へ依頼する際、次の情報を共有すると品質と進行が安定しやすくなります。
- NDAの使用目的
- 契約当事者
- 片務型か双務型か
- 対象となる取引・プロジェクト
- 翻訳方向(日→英、英→日など)
- 正文となる言語
- 準拠法
- 過去に使用したNDA
- 法務部門で確定済みの訳語
- 社名・部署名・役職名の正式表記
- 希望納期
- 納品形式
- AI翻訳の使用可否
- 弁護士・社内法務によるレビュー予定
特に、過去に同じ取引先との契約書を翻訳している場合は、その確定訳を共有すると、当事者名や重要用語を統一しやすくなります。
また、原文が交渉中で変更される可能性がある場合は、その旨も翻訳会社へ伝えましょう。
「最終版だと思って翻訳した後に大量の変更が入る」と、修正工数だけでなく、新旧バージョン間の反映漏れリスクも高まります。
NDA翻訳会社を選ぶときに確認したい5つのポイント

法務・契約書翻訳の経験があるか
一般的なビジネス翻訳とNDA翻訳では求められる能力が異なります。
契約書、利用規約、NDAなどの法務翻訳経験を確認しましょう。
原文と訳文を照合するチェック工程があるか
「ネイティブチェックあり」というだけではなく、原文との対訳チェックを行うか確認します。
NDAでは英語の自然さ以上に、意味の一致が重要です。
用語を管理できるか
Confidential Information、Disclosing Partyなど、定義語を文書全体で統一できる体制が必要です。
継続案件では、対訳用語集や過去訳の管理にも対応できる会社が適しています。
情報セキュリティ体制が整っているか
NDAは機密性の高い文書です。
ファイルの受け渡し、アクセス管理、登録翻訳者の管理、AI利用時の情報管理などを確認しましょう。
AI翻訳を適切に使い分けられるか
AIをすべて否定する必要も、すべてAIに任せる必要もありません。
社内参考訳、締結用NDA、定型文書など、用途に応じて、
- 人手翻訳
- AI翻訳+ポストエディット
- 既存AI訳の対訳チェック
を提案できる翻訳会社であれば、品質とコストのバランスを取りやすくなります。
インターブックスがNDA翻訳を支援できる理由

インターブックスでは、NDAをはじめ、売買契約書、業務委託契約書、ライセンス契約書、利用規約など、企業活動に関わるさまざまな法務文書の翻訳に対応しています。
NDA翻訳では、文章を自然な外国語にするだけでなく、
- 秘密情報の定義
- 除外条件
- 義務主体
- 開示可能な対象
- 利用目的
- 契約期間・秘密保持期間
- 返還・削除条件
など、契約上重要なポイントを意識しながら翻訳・チェックを進めます。
案件の用途やリスクに応じて、専門翻訳者による翻訳、別担当者による対訳チェック、ネイティブチェック、用語・数字・表記等のQAを組み合わせることで、品質の安定を図ります。
また、AI翻訳済みのNDAについて「このまま使えるのか確認してほしい」というご相談にも、原文との対訳チェックやポストエディットという形で対応できます。
さらに、海外展開に伴ってNDAだけでなく、基本契約書、業務委託契約書、社内規程、コンプライアンス文書などを複数言語へ展開する場合にも、一つのプロジェクトとして用語や品質基準を管理することができます。
NDA一通の翻訳だけを見るのではなく、その後の国際取引も見据えて翻訳資産を蓄積・管理することが、継続的な翻訳コストと社内確認工数の削減につながります。
まとめ|NDA翻訳は「短い契約書だから簡単」と考えない

- NDAでは、秘密情報の定義・除外条件・利用目的を正確に訳すことが重要
- 開示可能な対象や秘密保持期間の誤訳は、義務範囲の違いにつながる
- 限定・例外を表す短い表現まで注意して確認する必要がある
- AI翻訳は参考訳・下訳に活用できるが、重要なNDAでは人間による対訳チェックが重要
- 法務翻訳の経験と情報セキュリティ、品質管理体制を持つ翻訳会社を選ぶことがリスク低減につながる
NDAは数ページ程度の文書であっても、その中には企業の重要な技術、ノウハウ、顧客情報、事業計画を守るための条件が詰まっています。
翻訳費用だけを抑えるのではなく、「この訳文を基に重要な取引を進められるか」という視点で翻訳品質を考えることが重要です。
そのNDA翻訳、本当に安心して使えますか?

「海外企業から英文NDAが送られてきたが、細かな条件まで正しく理解できているか不安」
「日本語のNDAをAIで英訳したが、そのまま相手企業へ送ってよいか判断できない」
「重要な契約なので、専門家に原文と訳文を確認してほしい」
このようなお悩みがある場合、NDAを締結する直前になってからではなく、翻訳方法を検討する段階で専門の翻訳会社へ相談することが重要です。
インターブックスでは、法務分野に対応する翻訳者によるNDA翻訳に加え、対訳チェック、多段階QA、AI翻訳後のポストエディットなど、文書の目的と重要度に応じた品質設計をご提案します。
また、NDAに含まれる機密情報を安心してお預けいただけるよう、情報管理にも配慮した翻訳プロセスを整えています。
「人手翻訳が必要なのか」「AI翻訳+チェックでコストを抑えられるのか」「すでにある英文NDAをチェックしてほしい」といった段階からでもご相談いただけます。
海外企業との大切な取引を、NDA翻訳の不安で止めないために。NDA・契約書翻訳をご検討中でしたら、まずはインターブックスへ対象文書とご用途をお聞かせください。
「インターブックスの翻訳サービス」について、詳しく知りたい方はこちらをご覧ください
「インターブックスの翻訳実績・事例」について、詳しく知りたい方はこちらをご覧ください
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