- 2026.08.03
英語の親戚はこんなに面白い!ゲルマン語派の世界
前回地図を示しましたヨーロッパの印欧語族(印欧語族はアジアの方にも広がっています)の3大グループのうち、まずはゲルマン語派のお話からしましょう。
ゲルマン語派といえば、現在、事実上世界の共通語と化している英語が属しているグループです。ヨーロッパの中部から北部に分布しています。
その他にドイツ語、オランダ語、デンマーク語、ノルウェー語、スウェーデン語、アイスランド語などが主要な言語ですが、その他にルクセンブルク語、フラマン語、フリジア語、アルザス語、低地ドイツ語、フェーロー語、アフリカーンス語などの地域的変種(方言、という表現が適切でない場合があります)もあり、古語としては中世高地ドイツ語、古代高地ドイツ語、中世低地ドイツ語、ゴート語、古ノルド語などがある程度の量の文献を残しています。
全体としてゲルマン語派は難しいのか? と聞かれると、そうですね、易しいとは言えないけれども極端に難しいわけではない、というのが私の感触です。
現代語で一番難しいのはアイスランド語でしょう。とにかく語形変化が複雑です。
とはいえ、語頭(単語の始まりの部分)が音変化する、ということはなく、語中変化と語尾変化のみです(これはドイツ語なども同じ)。ケルト語派のように語頭音が変化すると辞書を引くのが大変なんですよね。
アイスランド語については、私は最初イギリスのオックスフォード大学から出ていたTeach Yourself Booksという語学叢書の «Icelandic» という本で学びました。
それから音声教材Linguaphoneのアイスランド語コースを聴きました。ðとかþといった奇怪な文字が並んだ外見に、エキゾチシズムを掻き立てられました。
またインターネットなど存在しなかった当時、その教材テキストに描かれた風物や人物にちょっと憧れのようなものを抱いたのも事実です。
そのころは「文法ノート」(前回お話ししました)を作る、というアイデアが無かったもので、後年別の教科書で作りました。その一部をご覧いただきます。

これは文字と発音のページの一部。それぞれの文字をどう発音するか、が記されています。
①②などとあるのは、発音が場合によって異なることを示しています。前後の音環境で発音が異なる時はその条件を書いてあります。
なお#は語頭または語尾にその文字が位置していることを示します。#g- ならgが語頭にあることを、-g#なら語尾にあることを示します。
またCは子音(consonant) 一般を、V は母音(vowel) 一般を表しています。
次に、定冠詞の変化と名詞変化。
名詞は他にも複雑な変化をするものがありますが、ここでは弱変化と呼ばれる比較的変化の少ないものの記述です。
丸囲みしたm, n, fはそれぞれ男性(masculine)、中性(neuter)、女性(feminine) を示します。
同じく〇囲みのsgは単数形(singular)、plは複数形(plural)を示し、主=主格、属=属格、与=与格、対=対格、を表します。


いかがですか? 面倒なことをするものだという感想をお持ちかもしれませんが、こうやって最初に見易くまとめておけば後からリファレンスするのに大変便利なのです。
何しろ人間は覚えても忘れるのが常ですから、こうやって「ノートが要領よく記憶していてくれる」というのは心強い。結局は時間の節約にもなるというものです。
私は出版社で校閲という仕事をしておりましたので、外国語の調べや翻訳物のファクトチェック、訳文の疑問個所の点検などでこのノートは非常に役立ちました。
「そんな特殊な用途にしか役立たないのか」と思う方もいるでしょうが、結局のところ複雑な文章や会話に対応するためには、文法を正確に把握することはいずれ必要になります。
何らかの形でリファレンスできるようにしておくことは決して無駄ではないと考えるものです。
その他のゲルマン語の概観はいかなるものか? 大まかに言えば、北欧諸語(デンマーク語、ノルウェー語、スウェーデン語)はずいぶん文法が簡略化されています。
現代語では動詞の人称別活用などはほとんど消滅していますし(一部は古めかしい表現として残っていますが)、名詞・形容詞などもずいぶん変化は少なくなっています。
それではこれらの言語はいたって易しいのか、と言えば必ずしもそうとは言えないでしょう。
言語というものは一部が簡単になれば、複雑な形でこそ区別し明瞭化していた意味内容を別の手段で表わそうとしますから、そちらの方が複雑になるという傾向があると思われます(例えば語順の厳格化、慣用表現の固定化等々)。
しかし文法表に載せるような複雑さについては、北欧語は比較的取り付きやすい言語だと言えましょう(フィンランド語は全く別系統の言語なので例外)。
文法的・語彙的にドイツ語と英語の中間的存在(やや英語寄りか)と考えても良いでしょう。
この3つをすべて学習するとしたらどれを最初に学べばよいか、と言えば、私はノルウェー語だと思います。
デンマーク語は発音が難しく、スウェーデン語は他の2つからはわずかに離れた感じ(語形やイントネーションなど)がするので、ノルウェー語を出発点とした方が、他の言語へ移る際のハードルはさほど高く感じないと思われるのです。
なお、フェーロー語はスペリングはアイスランド語に近く、発音的にはノルウェー語に近い、とされます。
ドイツ語、オランダ語、アフリカーンス(オランダ語の派生語。南アフリカ、ナミビアの公用語)も似通った言語群です。
ドイツ語を学んだ人なら、そう苦には感じないでしょう。アフリカーンスは先の2つよりは文法が簡略化されていますが、現在は公用語としての位置もかつてほどではなくなったのか入門書も見かけなくなりました。
その他のアルザス語、ルクセンブルク語、フラマン語、フリジア語、低地ドイツ語などもこのグループに近い言語と言えるでしょう。
フラマン語はオランダ語ときわめて近い言語。スイスやオーストリアにもドイツ語の方言は存在しています。
私はスイス・チューリヒのドイツ語を扱った文法書を読んだことがありますが、癖の強い方言だとは思ったもののやはり骨格は標準ドイツ語とそう大きく異ならないと感じました。
古語のうちでは中世高地ドイツ語が、「ニーベルンゲンの歌」などの古典作品が書かれた言語として特異な地位を占めています。
古ノルド語(古アイスランド語を含む)はサーガと呼ばれる古代物語文学の言語として重要で、ゴート語はゲルマン語派の言語学的研究において不可欠な言語です。
その他はドイツ史やキリスト教研究などの用途以外ではあまり使われないのではないでしょうか。
私の仕事上では、英語を除けばやはりドイツ語の翻訳関係が多く、オランダ語の翻訳も扱ったことがあります。
どちらかというと私はドイツ語が得意ではないのですが、必要となるケースが多いので何とか維持しているわけです。
文学ではヘルマン・ヘッセの晩年期の随筆などが気に入っています。
話が長くなりましたのでそろそろ切り上げましょう。次はロマンス語派の話をいたします。
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