第1回国際比較の意味
シリーズ「特許法の国際比較」
各国の法律を比較して研究する学問があります。これは比較法学と呼ばれ、法律の意義を深く探求する学問です。比較法学は、特に法改正作業の場で活躍します。
しかし、知的財産関連業務は、実務上の問題として各国の法律の相違に直面します。知的財産は、無体物を対象とする財産だからです。たとえば有体物である不動産は、日本国内から「不動」ですから、日本法以外の法律が適用されることは一般的にありません。
これに対して、特許は、アイデアである発明の実施を独占する権利なので、日本で創作された発明の実施を米国で制限するといったことが逆に一般的です。何故なら、発明は、世界中の何処でも同時に実施することが可能だからです。
日本の知財関連実務者は、先ずは、日本法と日本の知財制度を習得し、実務を行うことになります。すなわち、日本法に基づいて、どのようにして特許を取得し、ライセンス契約を結び、そして権利行使をするかということを学んで実務を遂行します。
しかしながら、各国の法制の相違が大きいと、その実務能力も習得しなければならず、知財関連実務者の負担が大きくなり、国際的な知的財産の適切な保護が困難となります。
このため、知的財産権保護の国際的な推進のための活動を行う国連の専門機関として、世界知的財産権保護機構(WIPO)が活躍しています。WIPOでは、各国の政府代表と実務専門家の代表(同、赤のネームプレート)とが定期的に集まって熱い議論が行われています。
しかしながら、実体的な側面における特許制度の調和は、現時点では実現性に乏しく、知財関連実務者が各国の法制度に精通し、各国において適切な実務を行う必要があります。
次回は、具体的な実務上の相違についてのお話です。
藤岡隆浩
弁理士・知的財産翻訳検定試験委員
日本弁理士会 欧州部長および国際政策研究部長を歴任
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