翻訳コラム

COLUMN

第20回ミラートランスレーション(その7:日本における取り扱い(英日翻訳))

弁理士・知的財産翻訳検定試験委員 藤岡隆浩
シリーズ「特許法の国際比較」

今回は、外国語書面出願の翻訳文に関する審査基準(PCTにも準用)について簡単に説明します。外国語書面出願の翻訳文に関する審査基準は、翻訳の際にどの程度修正可能かという点で1つの参考資料となります。

1.原則

審査基準によれば、「翻訳文としては、日本語として適正な逐語訳による翻訳文(外国語書面の語句を一対一に文脈に沿って適正な日本語に翻訳した翻訳文)を提出しなければならない。」となっています。しかしながら、原文に不備があることも多く、杓子定規に逐語訳で翻訳を行うことは実務上無理な場合が多いです。そこで、例外も認められています。

2.例外

原文新規事項は、原文に記載されていない新規に追加された事項を意味し、特許を無効とする理由になります。ただし、以下の変更は、原文新規事項とはならない修正として許されます。

(1)記載の順序の変更

審査基準によれば、「外国語書面(英文)の文章等の順番を入れ替えて翻訳した場合も、それにより外国語書面に記載されていない事項が明細書等に記載されたものとならない限り、原文新規事項とはならない。したがって、外国語書面中のいずれかの個所に記載がある事項であれば、その事項は原文新規事項とはならない。」となっています。
記載の場所が変わっても、一般には、原文に記載されていない事項が新規に追加されるわけではないからです。ただし、文脈が変わって新たな記載となる場合もあるので、文脈が変わらないように気をつける必要があります。

(2)訳抜け

審査基準によれば、「外国語書面の一部が翻訳されなかった場合は、通常の日本語出願の補正において記載事項が削除された場合に新規事項追加とならないことが多いのと同様に、原文新規事項とならないことが多い。しかし、翻訳されなかった部分の内容によっては、原文新規事項となることがある点に留意が必要である。」となっています。」審査基準では、以下の2つが例示されています。

例1:原文新規事項とならない例

外国語書面のクレームに上位概念Aが記載されており、その実施例として下位概念であるa1、a2、a3、a4が記載されていたところ、a4の部分が翻訳されなかった。
(具体例:私見)
たとえば、上位概念Aは、調味料であり、下位概念である「塩」「こしょう」「しょうゆ」「ソース」が記載されていたが、「ソース」が抜けていた。これは原文新規事項とはなりません(他の問題は生じさせるでしょうけど)。理由は、原文に記載されていない事項が追加された訳ではないからです。

例2:原文新規事項となる例

「耐熱処理を施したゴム(rubber treated to be heat-resistant)」という外国語書面の記載事項があり、明細書等の記載を参酌しても一般的な「ゴム」を意味していると解される記載事項が外国語書面中に見当たらない場合において、誤訳により「ゴム」と翻訳した。これは原文新規事項となります。
(説明)
この場合、外国語書面には、耐熱処理を施したゴムしか記載されておらず、一般的なゴムは、外国語書面に記載した事項の範囲内のものと認められないにもかかわらず、明細書等には一般的なゴムについて記載されていることになるので、原文新規事項となる。
(解説:私見)
耐熱処理を施したゴムは原文に記載してあるが、一般的な「ゴム」についての記載がない。したがって、「耐熱処理を施したゴム」を「ゴム」と訳すことは、「耐熱処理を施していないゴム」を新規に追加することになるということです。

出典:外国語書面出願の審査基準
https://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/tukujitu_kijun.htm

藤岡隆浩

弁理士・知的財産翻訳検定試験委員
日本弁理士会 欧州部長および国際政策研究部長を歴任