第23回ミラートランスレーション(その10:外国における事件(英中翻訳))
弁理士・知的財産翻訳検定試験委員 藤岡隆浩
シリーズ「特許法の国際比較」
シリーズ「特許法の国際比較」
今回は、誤訳訂正と手続き補正の違いについて説明します。誤訳訂正は、原文の記載に基づいて行う補正です。手続き補正は、翻訳文の記載に基づいて行う補正です。したがいまして、審査官は、誤訳訂正では、原文の記載に基づいて補正の可否を判断することになります。
1.中国国内移行時(PCT翻訳時)
原文において「化学的連結」と記載された事項がPCT翻訳によって「化学接着剤」と誤訳されています。したがいまして、「化学的連結」の語が削除され、「化学接着剤」が新規事項として追加されたことになります。この点は、前回の説明と同一です。
2.中間処理手続時
中間処理手続時の補正が手続き補正ではなく、誤訳訂正による補正であれば以下のように原文新規事項が翻訳文から排除され、原文記載の重要記載事項(化学的連結)を翻訳文の中に取り込むことができました。したがいまして、誤訳訂正による補正であれば、補正の違法性を理由に特許を無効にされることもなかったことになります。
3.実務上の留意事項
PCT翻訳時の誤訳が一因となって、特許が無効とされてしまいました。PCT翻訳においても発明の技術的特徴に関する部分については、極めて慎重に翻訳することが必要です。特に、原文の形式的な点に目を奪われて形式的に逐語的になるのではなく、テクニカルタームの選択等の実体的な内容について原文と翻訳文で実質的に一致しているかどうかが重要となります。
一方、中間処理では、クレームの補正においては、原文の記載を確認しつつ慎重に誤訳訂正と手続き補正の選択を行う必要があります。
藤岡隆浩
弁理士・知的財産翻訳検定試験委員
日本弁理士会 欧州部長および国際政策研究部長を歴任
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