翻訳コラム

COLUMN

第434回“再”は「再び」ではないことも

2019.06.19
通訳・翻訳家 伊藤祥雄

中国語は漢字を使うので我々日本語ネイティブには親しみやすいですよね。覚える労力が要らないだけでもありがたいです。

しかし、それだけに危険もいっぱい(笑)。同じ意味で使われている漢字だけではないからです。有名なところでは

手纸
shŏuzhĭ

これは「お手紙」の意味ではなく、トイレットペーパーのことですよね。


tāng

「お湯」のことではなくスープのことです。日本に来たばかりの中国人留学生がお風呂屋さんの暖簾の「湯」という字を見てスープ屋だと思い込んで、スープを買いに入ったという笑い話を聞いたことがあります。実際に行動しないまでも、そう思い込んでいた人は多いかもしれませんねぇ。

最近日本のデパートなどでも案内板に中国語が書かれていたりしますね。どの階にどんなものが売られているか書かれています。その中にこんな言葉を見たことはありませんか?

男装
nánzhuāng

女装
nǚzhuāng

日本語で「男装」と言うと女性が男性の格好をすることですよね。女装はその逆です。でも中国語では意味が全く違います。

“男装”は紳士服、“女装”は婦人服のことです。ちなみに子供服は“童装 tóngzhuāng”と言います。

上記のように比較的派手な(?)例は、おもしろいし覚えやすいですが、そういうものばかりではありません。今日は同じように注意が必要な、しかしあまり派手(?)ではない“再 zài”という副詞について考えてみましょう。

上で挙げた“手纸”や“汤”や“男装・女装”とは違い、“再”には日本語と同じ「再び」という意味もあります。例えばこんな感じ。

明天再来吧。
Míngtiān zài lái ba.
明日また来てください。

この“再”は明らかに「再び」の意味ですね。

では次の“再”はどうでしょうか。「再び」という意味で行けそうですか?

先吃饭,再看电视。
Xiān chī fàn, zài kàn diànshì.
先にご飯を食べてから、テレビを見る。

この“再”は明らかに「再び」の意味ではありませんね。「そのあとに」とか、そんな意味です。前半フレーズの“先 xiān”と呼応することが多いです。「先にご飯を食べて、再びテレビを見る」という意味ではないので、要注意ですね!

では次の例ではどうでしょうか。

请再说一遍。
Qĭng zài shuō yí biàn.
もう一回言ってください。

ああ、これは「再び」の意味だね、と思った人もいるかもしれませんが、実は違います。この“再”は「もう一回」「もう少し」「もう一個」の「もう」に当たります。

例えば:

A : 能便宜一点儿吗?
Néng piányi yìdiănr ma ?
少し安くできますか?

B : 好!
Hăo !
いいよ!

A : 能不能再便宜一点儿?
Néng bu néng zài piányi yìdiănr ?
もう少し安くできませんか?

上の会話を見てください。Aさんは最初は“再”を用いず“便宜一点儿”という言い方を使っています。つまり定価より少し安くしてとお願いしています。Bさんが少し安くしてくれるのですが、Aさんはまだ不満で、さらに安くしてほしい。そんな時は“再”を用いて“再便宜一点儿”というのです。

つまり:
再+動詞+回数や数量

この語順で、書いてある回数や数量分多めに行うということになります。

この場合、一度安くしてくれた後に、もう一回安くしてもらうので「再び」の意味でいいじゃん?と思う人もいるかもしれませんが、ネイティブの感覚としては「再び」ではなく「もう」であることを知っておくと、少しネイティブに近づけるのではないでしょうか。

伊藤祥雄

1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了

通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当

著書

  • 文法から学べる中国語
  • 中国語!聞き取り・書き取りドリル
  • CD付き 文法から学べる中国語ドリル
  • 中国語検定対策4級問題集
  • 中国語検定対策3級問題集
  • ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本