翻訳コラム

COLUMN

第436回結果補語の話

2019.07.03
通訳・翻訳家 伊藤祥雄

結果補語、ご存知ですよね?動詞のあとにくっつけて、その動作を行った結果どうなったかを補うのが結果補語です。

授業では、当然ながらできるだけわかりやすい例を出して説明します。例えば:

看完
kànwán

これは“看(見る)”という動詞に“完(終わる)”という意味の動詞が結果補語としてくっついた形です。意味するところは

見た(読んだ)結果、その行為が終わる→見終わる(読み終わる)

说错
shuōcuò
“说(言う)”という動詞に“错(間違う)”という意味の動詞が結果補語としてくっついた形です。意味するところは

言った結果、言った内容が間違った状態であった→言い間違う

こういう分かりやすそうな例を持ち出して理解してもらってから、日本語ではコンパクトに訳しにくいものをお教えしていくような感じでやっております。

さて、このやり方がいいと信じてきたのですが、弊害もあるかもと思うようになってきました。

先日ある学校で結果補語の練習問題をやっていた時の話です。

適切な結果補語を選ばせる問題でした。確か、こんな問題でした。

老师,我念()了,再念一遍,可以吗?

この練習問題、結構難しくて、参考にする日本語訳もなければ、選択肢もありません。さて、みなさんはカッコにどんな結果補語を入れたらいいと思いますか?

そうですね。この発言をする状況がちょっと日本では考えにくくて、生徒さんたちも結構悩みました。

「先生!私は~ので、もう一度読んでもいいですか?」

日本にはこんなにファイトのある学生さんはいないかもしれませんね~(笑)。

ここは“错”が入って「読み間違えた」と解釈するべきでしょうねぇ。

このクラスは4人しかいないクラスですが、4人とも不正解でした。その内の1人はこんなふうに答えてくれました。

「先生、『読み忘れた』じゃないですか?つまり答えは“忘 wàng”!

なるほど、どこか1か所を読み忘れていたことに気づいて、もう一度最初から読み直すというような、そういう状況を想定してくれたのでしょう。その状況なら、日本でもありそうです(笑)。

しかし、残念ながら不正解です。

日本語を見ると、「読み間違う」も「読み終わる」も「読み忘れる」も全て同じ構造ですが、「読み間違う」と「読み終わる」はいずれも「読む」という行為はきちんと始まり、そして、結果はどうあれ一応終わっています。しかし「読み忘れる」はどうでしょうか?

そうなんです。「読み忘れる」って「読むのを忘れる」ので、「読む」という行為は始まってさえいません。

結果補語はあくまで「動作を行った結果どうなったか」を補うものなので、動作自体は行われなければダメなのです。

「~し終わる」とか「~し間違える」という言い方を使って結果補語を説明するとわかりやすいとは思うのですが、同じような言い方のものは全て結果補語で言えると勘違いされてしまう弊害もあるのだなと思いました。また改善策を考えなければ(笑)。

伊藤祥雄

1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了

通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当

著書

  • 文法から学べる中国語
  • 中国語!聞き取り・書き取りドリル
  • CD付き 文法から学べる中国語ドリル
  • 中国語検定対策4級問題集
  • 中国語検定対策3級問題集
  • ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本

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