翻訳コラム

COLUMN

第451回帰国子女

2019.10.16
通訳・翻訳家 伊藤祥雄

伊藤が中国語を勉強し始めたのは、大学に入ってからですから19歳からですかね。それまでは普通に日本で育ちました。旅行でさえ海外に行ったことがなく、学校や塾で英語を勉強する以外は日本語オンリーの生活でした。

ですから帰国子女やハーフのような人にあこがれたものです。英語も日本語もペラペラなんて羨ましい〜って。

実際、仲良くしてもらっている英語通訳さん、ロシア語通訳さん、フランス語通訳さん、ドイツ語通訳さんはみんな帰国子女で、みなさんと一緒に飲む時はふつうにくだけた日本語で話していて「あ、ちょっと日本語不自由なのかな」と思う瞬間は全くありません。外来語が会話の中で出てきても、みなさんきちんとカタカナ英語、カタカナフランス語、カタカナドイツ語、カタカナロシア語で話してくれます。切り替えがきちんとできているんでしょうねぇ。本当に尊敬しています。

誰でも小さいときに海外で過ごすと外国語がペラペラになると、僕は思っていて、勝手にうらやんでいました(笑)。

でも、先日某テレビ番組で、芸能人の息子や娘がトークを繰り広げる、というようなものを見たのです。この時出ていた人たちの多くは海外育ちだったりハーフだったりしたのですが、ま~みなさん日本語に癖があって(苦笑)。

ただ外国で育つだけでだれでも完璧なバイリンガルになれるというものではないんだなぁと実感しました。もちろん、別にその芸能人のお子さんたちを見下しているわけではありません。人それぞれですからね。海外で育ったのを生かして通訳になろうとかいうのでなければ別に構わないと思います。ただ僕が言いたいのは、2か国語を自在にあやつっているかのように見えるあの僕の友人たちは、実はとても努力してそうなったんだろうなということです。

僕の周りには中国語と日本語のバイリンガルという人も何人かいます。中国育ちの日本人とか、日本人と中国人のハーフとか、台湾育ちの日本人とか。

そしてそのほとんどの人は、実は日本語の発音に少し問題があります。もちろん、普段日常的に話していてすぐに気づくほどおかしい発音ではありませんが、よ~く聞くと清音が濁音っぽくなっていたり。

逆に日本語を聞いていると特に問題ないのに中国語を話すと(僕には分からない程度ですがネイティブによると)やはり日本人の中国語という感じが少し残っているという人もいます。思うに、やはり中国語と日本語は発音体系が根本的に違うので、帰国子女やハーフといえども発音はどちらかに引きずられてしまう人が多いのだろうなと思います。

発音をきちんと習得するのは我々にとっても大変ですが、帰国子女やハーフの人が大人になってから発音を矯正するのはきっともっと大変ですね。もうふつうにペラペラしゃべれる状態の人が今更「ボポモフォ」でもないでしょうし(苦笑)。

我々としては、帰国子女やハーフの人でさえ発音が完璧にはならない(人が多い)くらい、発音体系が根本的に違う言語を学んでいるという意識をもって、謙虚に発音を研究し習得していきたいものだと思っています。

発音にこだわりすぎるべきではないという考え方もあるのは重々承知していますが、どんなに会話や文章力などが向上しても、発音はやはりノンネイティブにとって永遠の課題だと思うので、気長に、休むことなく、研究を続けていきたいなと思う今日この頃です。

伊藤祥雄

1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了

通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当

著書

  • 文法から学べる中国語
  • 中国語!聞き取り・書き取りドリル
  • CD付き 文法から学べる中国語ドリル
  • 中国語検定対策4級問題集
  • 中国語検定対策3級問題集
  • ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本