翻訳コラム

COLUMN

第462回ピンインの嫌なところ

2020.03.04
通訳・翻訳家 伊藤祥雄

前に、台湾で使われている注音符号のことを書きました。漢字の発音を表す発音記号ですね。昔は大陸でも使われていました。

前にも書いたように、注音符号は僕には不思議なことがあったりしたので深入りはしないことにしましたが(笑)、注音符号の方が合理的に出来ているなと思う部分も結構ありました。

今日はピンインのここが嫌、というような、愚痴をこぼしたいと思います(笑)。

まぁ意外とお忘れかもしれませんが、例えば“有”と“酒”は母音部分が同じなんですよね。ピンインを書いて、確かめてみましょう。


yŏu


jiŭ

違うじゃん、「ou」と「iu」じゃん。と思うかもしれませんが、実はそうではありません。どちらも「iou」という三重母音ですね。

三重母音「iou」は、前に子音がつかない場合は「you」と書き、前に母音がつく場合は「-iu」と書くことになっていました。覚えていますか?

でも、こんなふうに書かれると同じ母音とは思わないですよね~(笑)。

同じ状況なのが“尾”と“鬼”。


wěi


guĭ

違って見えるかもしれませんが、どちらも「uei」という三重母音ですね。
次のも同じような状況です。


wèn


kùn

どちらも「uen」という鼻母音です。同じ母音とは思えませんよねぇ。ピンインはこういうのが困る。忘れている人が多いのではないかと思いますね~。


では、これはどうでしょうか?


kùn


xùn

どちらも「-un」と書かれています。どう見ても同じ母音に見えますよね?でも、違うんです!

上にも書きましたが、“困 kùn”は本当は「k + uen」です。「uen」という鼻母音は、前に子音がつくと「-un」と書くことになっています。

では、“训”はどうでしょうか。こちらは「x +ün」です。「ün」という鼻母音は、前に子音が無い場合は「yun」と綴りますが、前に子音がある場合は「-un」と書くのです(「u」の上の点々を書かないのですね)。

つまり、同じように「-un」と綴るのに、実は違う母音なのですね。

どうやって見分けるかというと、前につく子音で見分けられるのです。

「ün」という鼻母音は、前に「j / q / x(いわゆる「舌面音」)」しか付きません。それ以外の子音が付いている「-un」は、本当は「uen」なのだ、と覚えてください。

子音がつかない場合はどうやって見分けるのだろうか?と思ったかもしれませんね。子音がない場合はシンプルです。違う綴りになりますから。例えば:


yún(「ün」の子音なしの場合の綴りです)


wén(「uen」の子音なしの場合の綴りです)


次の例も同じような状況です。


tuán


quán

どちらも同じ「-uan」という鼻母音のように見えますが、「-uan」という鼻母音なのは上の“团 tuán”だけです。

下の「全 quán」は本当は「üan」という鼻母音です。「üan」は前に子音が無ければ「yuan」と綴りますが、前に子音があると「-uan」と書くのです(つまり「u」の上の点々を書かない)。というわけで結果的にどちらも同じ「uan」という鼻母音のように見えてしまうのですが、実は別々の鼻母音なのです。

見分け方も上の「kun(-uen) / xun(-ün)」の時と同じです。「üan」という鼻母音は、前に「j / q / x(いわゆる「舌面音」)しか付きませんので、それ以外の子音が付いていたら本当の「uan」という鼻母音なのです。

ピンインにはこういうトラップが多いです。まぁ僕はもう慣れてしまったので、今更変えてもらっては困りますけど(笑)、慣れていない人は改めてピンインの綴り方をおさらいし、「これとこれは形は違うけど同じ母音」「これとこれは形は同じだけど違う母音」というのを確認してみてください。きっと発音のブラッシュアップになると思います。

伊藤祥雄

1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了

通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当

著書

  • 文法から学べる中国語
  • 中国語!聞き取り・書き取りドリル
  • CD付き 文法から学べる中国語ドリル
  • 中国語検定対策4級問題集
  • 中国語検定対策3級問題集
  • ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本