翻訳コラム

COLUMN

第464回委員会

2020.04.01
通訳・翻訳家 伊藤祥雄

皆さんは何か理事会とか委員会に属していますか?

僕は学校を卒業して以降は、どこかの会社や組織に正規のメンバーとして所属したことがないものでしばらくご無沙汰でしたが、数年前にマンションの理事会に所属しました。持ち回りなので立候補したわけではなく、1年でお役御免となりました(笑)。

また、その時に、理事会の下部組織(?)として「ペット委員会」なるものが発足し、ペットを飼ってもいないのにペット委員にならされていました(笑)。

この理事会とか委員会、中国語でも同じ単語があります。

理事会
lĭshìhuì

委员会
wěiyuánhuì

どちらも日本語とほぼ同じような意味と思って差し支えないのですが、厳密にいうと実はちょっと違うらしいのです。

まずは日本語から考えましょう。例えば「ペット委員会」とは、ペットについて話し合う組織ですね。ペット委員という代表者が数人集まって構成される組織を指します。しかし同時にこの委員会で行われる会議のことも「ペット委員会」と呼ばれます。例えば:

「今日ペット委員会がありました。」

この場合は「ペット委員会」という単語は「ペット委員会で開かれる会議やミーティング」を指しますよね?

これを中国語にそのまま直訳してみましょう。

(?) 今天我们召开了宠物委员会。

よさそうでしょう?でも中国語ではあまりよくないようです。

中国語では“理事会”とか“委员会”は組織でしかなく、そこで開かれる会議のことは指さないらしいのです。

ですから、中国語としては、こんなふうに言わなければなりません。

今天我们召开了宠物委员会会议。
Jīntiān wŏmen zhàokāi le chŏngwù wěiyuánhuì huìyì.
(直訳)今日私たちはペット委員会の会議を開いた。

この直訳を見ると、日本語としてはかなりまどろっこしいですねぇ。でも中国語ではこう言わないと違和感が残るようです。

中国の国会にあたる全人代(全国人民代表大会中国語での略称:全国人大)でも、

第十三届全国人民代表大会第二次会议
dì shísān jiè quánguó rénmín dàibiăo dàhuì dì èr cì huìyì
第13回全国人民代表大会第2回会議

というような言い方をしていますね。「第13回全人代」という大きな枠組みがあり、その期間中に何度も全体会議が開かれるので、それを第1回会議、第2回会議、と言っているようです。“委員会”や“理事会”もそれと同じような扱いになるのですね。

日本語と中国語は同じ漢字を使うので、我々日本語ネイティブが中国語を学ぶのは、他の言語のネイティブに比べると圧倒的に有利ですが、同時に色々不利な面もあります。今日のメルマガの内容のように、字面が全く同じで意味も似ているけど厳密に言うとちょっと違う場合って本当に要注意ですね。

伊藤祥雄

1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了

通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当

著書

  • 文法から学べる中国語
  • 中国語!聞き取り・書き取りドリル
  • CD付き 文法から学べる中国語ドリル
  • 中国語検定対策4級問題集
  • 中国語検定対策3級問題集
  • ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本