翻訳コラム

COLUMN

第466回三国志の成語

2020.04.29
通訳・翻訳家 伊藤祥雄

さて、実は最近もまた余裕のない日々を過ごしております。よって、今回も、またまた三国志におすがりしようと思います(苦笑)。

でも今日はちょっと趣向を変えて、三国志(『三国演義』)に出典のある成語をご紹介しましょう。できれば日本でも使うものの方が皆さんも興味があるかと思い、探してみました。

虚虚实实

xūxū shíshí

日本語でも使う言葉ですね。日常会話で使うことはほとんどないでしょうが、小説等では「虚虚実実の駆け引き」とか出てきそうです。

意味するところは日本語では「嘘と真実を混ぜ込んだやり取りをして相手の腹を読み合うこと」というような意味で使うことが多いかと思います。中国語でも意味合いはほぼ同じような感じかと思います。

さて、この言葉、出典は実は『三国演義』なのだそうです。原文を出してみましょう。

岂不闻兵法‘虚虚实实’之论?
qĭ bù wén bīngfă ‘xūxū shíshí’ zhī lùn ?
兵法に言う「虚虚実実の論」というのを聞いたことがあるだろう?

この言葉は諸葛孔明の言葉です。

三国志の中のクライマックス、赤壁の戦い。曹操の大軍と孫権・劉備連合軍との一大対決です。長江を隔てて対峙する両軍。孫権側が火計を用いて曹操軍に大きなダメージを与えます。

劉備軍は潰走する曹操軍に追い打ちをかけなければなりません。ここで諸葛孔明は次々と部下たちに指示を与えます。

「趙雲は~~に身をひそめドウコウ」
「張飛は~~に向かいアレコレ」

主な将たちに指示を出し終わったところで、劉備の義兄弟である関羽がいぶかしげに声を上げます。

「私に対する指示はないのでしょうか?今か今かと待っておったのですが。」

孔明は関羽に言います。

「御身を使いたいのはやまやまなのであるが、1つ心配がある。御身はかつて曹操のところで厚恩を受けたことがある。ボロボロの姿で敗走してきた曹操を見て、御身はそれを討つことができるかな?御身の性格からしてそれは無理であろう。だから今回は泣く泣く御身に留守を守っていただくことにしたのだ。」

関羽は驚き、絶対に討ち漏らさない、情に流されて逃がしたりしたらどんなバツも受けると誓約書を書いて、やっと出動の命令をもらうのです。

「では御身は曹操が逃げてくるであろう華容山のふもとに通じる道にひそめ。そして峠の方には薪に火をつけて煙を上げておくべし。曹操は必ずやってくるであろうから、思う存分蹴散らし、曹操の首を取れ。」

関羽が質問します。「火をつけて煙を上げると、曹操は『こちらに敵の気配あり』と見て、別の道を取ってしまうのではないでしょうか?」

それを聞いた孔明は、虚虚実実という言葉を言います。

岂不闻兵法‘虚虚实实’之论?
qĭ bù wén bīngfă ‘xūxū shíshí’ zhī lùn ?
兵法に言う「虚虚実実の論」というのを聞いたことがあるだろう?

曰く、曹操はこの「虚虚実実の論」に詳しい人物である、行く手にこれ見よがしに煙が上がっているのが見えると、「敵は自分を別の方向に進ませるためにわざと煙を上げ『こちらに敵あり』と思わせているのであろう。実はこちらには敵などいないに違いない」と思って敢えて御身のいる方へ進んでくるに違いない、とかなんとか。

まさに腹の探り合い。しかも、文字通り「命懸け」の腹の探り合いです。いや~、小説で読む分にはいいですが、当事者だったら胃を悪くしてしまいそう(笑)。

ちなみに関羽はきちんと曹操を討つことができたのでしょうか?

実は、できませんでした。やはり、曹操から厚恩を受けたことがある関羽にとって、ボロボロになって逃げてきた曹操を討つことは到底できなかったようです。

ここで関羽が曹操を討ち取っておれば、歴史は変わったでしょうねぇ。残念(笑)。

伊藤祥雄

1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了

通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当

著書

  • 文法から学べる中国語
  • 中国語!聞き取り・書き取りドリル
  • CD付き 文法から学べる中国語ドリル
  • 中国語検定対策4級問題集
  • 中国語検定対策3級問題集
  • ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本

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