翻訳コラム

COLUMN

第476回#私のお気に入り “是~的”

2020.09.16
通訳・翻訳家 伊藤祥雄

僕は今、大学等で中国語をお教えする仕事もさせていただいています。

人にモノをお教えするのは、とても大変ですがやりがいのある仕事ですね。まして生徒さんが熱心だと、こちらもワクワクします!

先日、某大学の1年生の授業で、ある学生さんが質問をしてくれました。強調構文“是~的”に関する質問でした。

質問内容をご紹介する前に、僕がこのクラスでこの強調構文を教える時にどう説明したかを書いておきましょう。

例えば次のような文があったとしましょう。

我昨天吃生鱼片了。
Wŏ zuótiān chī shēngyúpiàn le.
私は昨日刺身を食べました。

これ、強調構文ではない、普通の文ですね。こういう普通の動詞述語文は、話者の一番言いたいことって何でしょうか?

そう、「刺身を食べた」というところ。もっと言えば「刺身」ですね。「昨日何食べたの?」「昨日?そうだね、刺身を食べたよ」というような会話が目に浮かびます。この例文はこういうシチュエーションで発せられますよね。

では、聞き手が「相手は刺身を食った」ということをすでに知っていて、「え?いつ刺身を食べたんだっけ?」と尋ねてきたとします。そんな場合の答えはどうなるでしょうか?

そう、強調構文のお出ましです。

我是昨天吃生鱼片的。
Wŏ shì zuótiān chī shēngyúpiàn de.
私は昨日刺身を食べたのです。

つまり、普通の動詞述語文では強調されない部分(いつやったのか、どこでやったのか、だれがやったのか、どのようにやったのか、、、など)をはっきりさせたい、強調したい、そんな場合に強調構文“是~的”を使うのですよ。と、まぁこんな話を授業で語ったのです。

さて、これを踏まえて、ある学生さんが授業後に僕に質問をしてきてくれました。

彼は、この強調構文を気に入ったようで、色々な文を強調構文に加工してみたのだそうです。で、その日、「こういう文は成立しますか?」と尋ねてきてくれたのです:

我是两个小时看电视的。

う~む、これは多分ダメですよね?

彼は“我看了两个小时电视。(私は2時間テレビを見た。)”という文を見て、この「2時間」というのを強調させることはできるかなと思って作ってみたらしいです。

しかし、どうしてダメなのでしょうね?色々考えてみたのですが、どうも元の文で動詞より後に並んでいる言葉は強調構文で強調することができないらしい、という結論を得ました。

例えば冒頭の文“我昨天吃生鱼片了。”で考えてみましょう。いつやったのかを強調すると先ほど書いた“我是昨天吃生鱼片的。”という文になりますね。同じように:

(どこで?)
我在新宿吃生鱼片了。→我是在新宿吃生鱼片的。
(だれが?)
我吃生鱼片了。→是我吃生鱼片的。
(どのように?)
我和他一起吃生鱼片了。→我是和他一起吃生鱼片的。

いずれも文も強調したい部分(昨天、在新宿、我、和他一起)は元の文だと動詞より前にあるものばかりですね。

しかし、先ほど学生さんが質問してくれた文の場合、元の文“我看了两个小时电视。”の中の“两个小时”は時量補語なので、動詞の後に入ります。これは、もし強調構文にしようと思うと、強調したいものを“是”の直後に置かなければならない関係で、動詞の後にあるべき時量補語を動詞の前に持ってこなければなりません。だから強調構文にできないのですね。

こんなことを考えていた時、中国語の語順っていい加減だと言われることもあるけどやはりかなり厳格なのだなぁと改めて思い、強調構文が「私のお気に入り」にエントリーしました(笑)。

伊藤祥雄

1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了

通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当

著書

  • 文法から学べる中国語
  • 中国語!聞き取り・書き取りドリル
  • CD付き 文法から学べる中国語ドリル
  • 中国語検定対策4級問題集
  • 中国語検定対策3級問題集
  • ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本