翻訳コラム

COLUMN

第441回

2019.08.07
通訳・翻訳家 伊藤祥雄

いきなりですが、「熱中症」のこと、中国語では何と言うかというと:

中暑
zhong4 shu3

ある語学学校でこの語彙を生徒さんたちにご紹介すると、「なんか暑中見舞いのようであまり切迫感がありませんね」というコメントをいただきました(笑)。確かに「暑中」と似てますね。気づきませんでした。

“中暑”は動詞表現ですので「熱中症になる」「暑気あたりする」というような意味です。名詞的に使うこともありますが、基本的には動詞として覚えておくとよいかと思います。

さて、ここで気をつけたいのは“中”という字の発音です。

多くの場合この字は第1声で読みますね。

中国
Zhōngguó

高中(“高级中学”の略→高校のこと)
gāozhōng

でも熱中症を表す“中暑”の“中”は「zhòng」と第4声で読むのです。そう、この“中”という字、実は“多音字 duōyīnzì(複数の発音を持つ漢字)”なのです。

では、どういうふうに使い分けているのでしょうか?

zhōng…中、中間、中央というような意味の時
zhòng…矢が的に当たるというように、何かがど真ん中に当たる感じ

第4声で読む“中”は、日本語にも色々な語彙の中で見られます。例えば:

的中(てきちゅう)→矢が的のど真ん中に当たる
中毒(ちゅうどく)→毒に当たる

中国語ではこんな語彙で使われています。

中毒
zhòng dú
毒に当たる、

中弹
zhòng dàn
弾に当たる

中奖
zhòng jiăng
宝くじや何かの賞に当たる

中意
zhòng yì
気に入る、意にかなう

看中
kànzhòng
見た結果ピンとくる→気に入る

猜中
cāizhòng
答えを予想したり考えたりしてピタリと当たる

击中
jīzhòng
(弾丸などが)命中する

けっこういっぱいありますね。最後の3つの“中”は結果補語として使われています。

ありふれたような“中”という漢字ですが、「この場合はどっちで読むのかな?」とか考えながら文書などを読むのも、また楽しいですよ。他の“多音字”についてもまた今度書いてみます。

伊藤祥雄

1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了

通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当

著書

  • 文法から学べる中国語
  • 中国語!聞き取り・書き取りドリル
  • CD付き 文法から学べる中国語ドリル
  • 中国語検定対策4級問題集
  • 中国語検定対策3級問題集
  • ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本