翻訳コラム

COLUMN

第461回名前の呼びかけ

2020.02.19
通訳・翻訳家 伊藤祥雄

皆さんのお名前は何文字ですか?

僕は4文字です。日本の名前は4文字が多い気がしますね。大学の中国語の授業の名簿を眺めていても、4文字の名前の人が圧倒的に多いです。

字数が多いからでしょうか。日本の人はメールの最後に自分の名前を書く時苗字しか書かない人がすごく多い気がします。皆さんはどうですか?

僕は、苗字が「伊藤」で、とてもありふれているので必ずフルネーム書きます。だって「伊藤」って本当に多いですから、苗字だけ書いてあってもどの伊藤さんか分からないってことにならないとも限りません。だから、下の名前まで書いて、自分であることをアピールしているのです。

それはさておき。

人の名前を呼ぶ時、皆さんはどんなふうに呼んでいますか?

日本だったら、呼び捨ては結構ハードルが高いですよね?高校生までだったら同級生同士呼び捨てで呼び合うこともありますが、大学とか会社とかで知り合った人だとどうでしょうか。「~さん」「~君」とかあだ名とかはあるでしょうが、「伊藤!」「山口!」と呼び合うような場面は、、、少なくとも僕の周りにはなかったような気がします。

でも中国語だと呼び捨ては結構ふつうですね。しかもフルネームで呼び捨てにすることも少なくありません。

フェイスブックで関西在住の中国語の先生(日本人)が、中国語に関する知識や経験を惜しみなく披露している人がいらっしゃいまして、僕もよく読ませていただいているのですが、その中で氏は「フルネームは意外と丁寧」と書いておられました。

中国人同士の呼び合いは、とても親しければあだ名や下の名前だけ(下の名前が2文字の場合のみですが)で呼んだり、苗字の前に“小”や“老”をつけて“小王”とか“老李”のように呼んだりしますし、丁寧な感じ(逆に言うとあまり親しくない間柄での呼びかけ)にしたければ、“~先生(~さん)”とかの敬称や“~经理(~支配人、~社長)”のように肩書を苗字の後につけたりしますが、氏の解説によればフルネームの呼び捨てはその中間くらいに位置する、とのことでした。

そう、フルネームの呼び捨てって中国語では全く乱暴でも粗雑でもない、キチンとした言い方なのですよね。叱ったり相手に詰め寄る時もフルネームの呼び捨てですけど(笑)。

中国語で日本人の名前を呼ぶ時はどうでしょうか。フルネームでも3文字や2文字の人っていますよね。競馬の騎手で「武豊」という人がいますね。ご存知でしょうか?日本人では珍しくフルネームでも2文字ですね。3文字の人はもっとたくさんいますよね。こういう人たちは中国語の中ではフルネームで呼ばれることが多いだろうと思います。しかし、4文字以上の人の場合で、苗字が2文字や3文字だったら、苗字しか呼ばれないでしょうね~。中国語の世界では4文字を越えると、1つの単語としてはちょっと長すぎるようです(笑)。

僕の場合は“伊藤Yīténg”と呼ばれることが多い気がします。先の中国語の先生によると、これは2文字のフルネームを呼び捨てにしている感覚と同じなのだろう、とのことでした。そうかもしれません。だから、わりあい丁寧な呼びかけなのでしょうね。

その昔、NHKの中国語放送(短波ラジオ)のアナウンサーをしていた時のことです。普段一緒に仕事をしない若い中国人女性アナウンサーと一緒に番組を作ることになったのですが、彼女が放送の中で僕に呼びかける時“伊藤 Yīténg”と呼びかけるのにどうも抵抗があったようで「“伊藤先生 Yīténg xiānsheng”と呼んだらだめですか?」と僕やディレクターに何度も尋ねていました。

どうも、彼女は、僕との年齢差を考えて、さすがに呼び捨ては抵抗があると思ったようです。年齢差、、、いくつくらいだったかな。20歳近い年齢差があったように思います。このくらい違うと、いくら呼び捨てが乱暴な呼びかけ方ではないと言っても、ちょっと抵抗があったのでしょうね。どのように呼びかけるのかは、なかなか微妙なところなのでしょう。

ところで、先の中国語の先生の解説で、苗字の前に“小”や“老”をつけるのは親しい間柄のことということになっていますし、実際その通りだと思うのですが、なぜかテキスト類では“小”や“老”の訳を「~さん」としています。まぁ日本語だとそうなってしまうのでしょうが、日本語で「~さん」は親しくなくても使えるオールマイティな言葉ですよね?だから僕は留学に行く前に日本で勉強していた時、日本語の「~さん」の感覚でいいと思い込んでいました。

そして留学に行った初日です。留学生寮の世話役をしていた“李”という苗字のおじさんがいて、初対面の挨拶をした後いきなり僕が「李さん、ちょっと質問が。。。」というくらいのつもりで:

老李!
Lăo Lĭ !

と呼びかけたのです!周りで聞いていた先輩留学生がみんなびっくり!李さん本人は気にしていなかったようですが、やはり“老~”はかなり親しくなってから使うべきでしたね(笑)。

相手との関係を考えて呼びかけ方を決める。。。でもなかなか勇気のいることではありますね。無難に丁寧な呼びかけをすると「水臭い」と思われたりもしますしね~。でもある程度親しくなったら一歩踏み込んでみると、相手とより親しくなれるきっかけになるかもしれませんね。

伊藤祥雄

1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了

通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当

著書

  • 文法から学べる中国語
  • 中国語!聞き取り・書き取りドリル
  • CD付き 文法から学べる中国語ドリル
  • 中国語検定対策4級問題集
  • 中国語検定対策3級問題集
  • ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本

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