翻訳コラム

COLUMN

第431回たくさん食べる

2019.05.29
通訳・翻訳家 伊藤祥雄

中国人に食事をごちそうになる時、たいていたくさん食べるよう勧められますよね。こんなふうに:

多吃!
Duō chī !
たくさん食べなよ!

この“多”、動詞の前に置かれるのですよね~。時々生徒さんから「たくさんのものを食べるってことなんだから、“多吃”にならないんですか?」と尋ねられたりします。

でも、日本語「たくさん食べなよ」の「たくさん」は「食べる」という動詞を修飾していますよね?「たくさんのものを食べる」のではなく「たくさん食べる」「いっぱい食べる」です。つまり「たくさん」は「食べる」の目的語ではなく、「食べる」の様子を表す修飾語なのです。

中国語もそうなっています。中国語は前にあるものが後ろにあるものを支配しますので、この“多”は“吃”にかかる修飾語なのです。“多+動詞”で「たくさん~する」「多めに~する」という意味になります。結構よく使いますよね。例えばよく語学学習についての文脈で、こんなことが叫ばれます。

多听多说
duō tīng duō shuō
たくさん聞いてたくさん話す

あと、みなさんもよく使うのではないでしょうか、「よろしくお願いします」の中国語。

请多关照!
Qĭng duō guānzhào !
(直訳)どうぞ多めに世話してください。

さらに、どのくらい多めにするのか、具体的に言うことができます。多めにする数量は動詞のあとに置きます。つまり“多+動詞+数量”という語順になります。例えば

多吃一个
duō chī yí ge
1個多く食べる

では、次の文はどんな意味合いを表すでしょうか。

多吃一点儿
duō chī yìdiănr

ある生徒さんが「これは結局、たくさん食べるのか少しだけ食べるのかどっちですか?」と質問してきたことがありました。“多”は「たくさん」、“一点儿”は「少し」と訳されることが多いですから、頭が混乱してしまったのでしょうね。無理もありませんが、この文は上にも書いた“多+動詞+数量”という構文だと考えると分かりやすいかと思います。

つまり「少し」という分量の分だけ多めに食べる、ということです。普通に食べる分を「100g」とすると、「100g+“一点儿(少し)”」食べる、ということを言っているのですね。

逆に「少なめに(控えめに)~する」と言いたい時は“少”を動詞の前に置きます。少なめにする数量(減らす数量)を言いたい時の語順も多い時と同じで“少+動詞+数量”となります。例えば、お店で値切りたい時、“便宜一点儿”とも言いますが、こんな言い方もできそうです。

少算一点儿。
Shăo suàn yìdiănr.
(直訳)ちょっと少なめに計算してよ。

料理がすごくおいしいけど、ちょっと塩分が高めだな~と感じ、塩分を少なめにしてほしければどう言いましょうか。

少放一点儿盐。
Shăo fàng yìdiănr yán.
(直訳)ちょっと少なめに塩を入れて

この文のように目的語を入れたい場合は、数量の後に入れるといいですね。

口げんかしている時に相手の言葉にムッとして「ちょっと黙れ!」と言いたい時はどう言いましょうか。

少说两句!
Shăo shuō liăng jù !
(直訳)二言ほど少なめに話せ!
(この“两 liăng”は「2」という具体的な数字を表すのではなく、「いくらか」ぐらいの漠然とした表現です。)

動詞の前に置く“多”“少”、うまく使えると表現の幅が広がりそうですね。中国人の発言を聞いていてこのような表現が聞こえてきたら、ぜひ真似して自分の表現を豊かにしていってください。

伊藤祥雄

1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了

通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当

著書

  • 文法から学べる中国語
  • 中国語!聞き取り・書き取りドリル
  • CD付き 文法から学べる中国語ドリル
  • 中国語検定対策4級問題集
  • 中国語検定対策3級問題集
  • ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本