翻訳コラム

COLUMN

第432回#私のお気に入り ちょっと

2019.06.05
通訳・翻訳家 伊藤祥雄

今日は「ちょっと」の話でもしてみようかと思います。

「ちょっと~する」という表現、中国語だと色々ありますね。例えば、「ちょっと休憩する」だったら

休息一下
xiūxi yí xià

休息休息
xiūxi xiūxi

休息一会儿
xiūxi yíhuìr

「ちょっとおまけする(安くする)」だったら

便宜一点儿
pian2 yi yi4 dianr3

「ちょっと待つ」だったら

等(一)等
děng (yi) děng

等一下
děng yí xià

等一会儿
děng yíhuìr

といった言い方が考えられます。

つまり、まとめてみると:

動詞+一下
動詞+(一)+動詞
動詞+一点儿
動詞+一会儿

以上4種類ほどが考えられますかね。どれも日本語に訳してしまえば「ちょっと~する」というような意味になるのですが、それぞれ意味合いが違います。

まず「動詞+一下」。“下”というのは、もともとは回数を数える量詞でした。だから、直訳すれば「一回~してみる」というような意味です。だから“休息一下”だったら「一回休憩する」というようなところから「ちょっと休憩する」という意味が出てくるわけですね。“等一下”も同じで「一回待つ」→「ちょっと待つ」となるわけです。

それに対して「動詞+一会儿」はどうでしょうか。

“一会儿”は「しばらく」という意味。つまり時間の概念を表す言葉です。だから、“休息一会儿”は「しばらく休憩する」、“等一会儿”は「しばらく待つ」ですね。場合によっては「ちょっと休憩する」「ちょっと待つ」と訳しても全然構いませんが、“休息一下”とは少しニュアンスが違うのです。

では“一点儿”はどうでしょうか。これは「少し」という意味ですが、具体的には数量の少ないことを表します。回数や時間ではなく数量が少ないのですね。

ですから“休息一点儿”や“等一点儿”は言えません。“休息”や“等”に数量はあまり関係ないからです。

さて、では「動詞+(一)+動詞」はどうでしょうか。いわゆる「動詞の重ね型」と言われている表現ですね。

これは、間に“一”が挟まれていることから、2回目の動詞は、動作1回分、つまり動作の回数を表しているといわれます。つまり“等一等”であれば、“等 + 一等”(“等”という行為を1回分だけする)と考えるわけです。

ですから、回数からきた“等一下”とほぼ同じとよく言われます。

でも、全く同じではないと僕は感じています。以前ある芸術家がゆかりの地を訪問し感慨にふけりながら歩くような場面をテレビで見たのですが、そこのナレーションでこんなふうに言っていました。

他每次来到北京,都喜欢到这里,走一走,看一看。
Tā měicì lái dào Běijīng, dōu xĭhuan dào zhèli, zŏu yi zŏu, kàn yi kàn.
(直訳)彼は北京に来るたびに、ここを訪れ、歩いたり眺めたりするのが好きなのです。

これは、僕は“走一下,看一下”と言いかえてしまうと台無しだなぁと思いながら見ていました。

“走一走”“看一看”の“一走”“一看”の部分は、上で書いた説明では回数表現として動詞が代用されていると考えます。しかし単に回数を表すのではなく、動作の映像が目に浮かぶような効果があるなと思ったのです。

つまり“走一走”なら、ちょっと歩いては立ち止まるという「そぞろ歩き」の映像がとてもよく見えてくる気がしませんか?“看一看”ならちょっと何かを眺め、それに飽いたら別のところに視線を移すような映像が見えてきませんか?

そんなわけで、動詞の重ね型、僕はちょっと好きなんです(笑)。みなさんはどう思われますか?

伊藤祥雄

1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了

通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当

著書

  • 文法から学べる中国語
  • 中国語!聞き取り・書き取りドリル
  • CD付き 文法から学べる中国語ドリル
  • 中国語検定対策4級問題集
  • 中国語検定対策3級問題集
  • ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本

バックナンバー

記事一覧