翻訳コラム

COLUMN

第459回三国志の言葉

2020.01.21
通訳・翻訳家 伊藤祥雄

今回はネタが思いつかないので、三国志に助けてもらおうと思います(笑)。

三国志関連の言葉、成語やことわざ的なものからちょっとした冗談のような言い回しまで様々なのですが、やはり“歇后语 xiēhòuyŭ”がとても多いように思いますし、内容的にも面白いものが多いと思うので、今日も“歇后语”をご紹介します。

その前に改めて“歇后语”のことを簡単にご説明しておきましょうか。

“歇后语”とは一種の言葉遊びです。前半と後半に分かれていて、前半で何か上手いことを言い、その心は?ということで後半部分を相手に考えさせるような、そんな感じです。1つダジャレみたいな“歇后语”を例として紹介しましょう。

张飞妈妈姓吴
Zhāng Fēi māma xìng Wú
張飛のお母さんは呉という苗字だ

その心は?

吴氏生飞(无事生非)
Wú shì shēng Fēi(発音は同じ)
呉さんが飛を生む(何事もないのに問題を引き起こす)

こういう感じです。なかなか面白いでしょう?

今日ご紹介するのは、こんなダジャレっぽいものではありません。三国志の話を下敷きにした“歇后语”です。

张飞战关公

Zhāng Fēi zhàn Guāngōng
張飛が関公と戦う

その心は?

忘了旧情
wàngle jiùqíng
旧情を忘れた

張飛というのは劉備の義兄弟です。関公とは関羽のことで、この人も劉備の義兄弟です。つまり張飛と関羽も義兄弟の間柄です。その2人が戦うなんて、かなり珍しい状況なのですね。僕の知る限り、1回しかありません。

三国志のお話の中でもまだ前半でしょうか。曹操が漢の皇帝を操り人形のように扱い、権力をほしいままにしていた時期です。皇帝がその状況を憂い、忠臣である董承に密書を送り曹操を討てと命じます。董承は信頼できる有力者数人と話し合い、すぐには難しいが長期的に計画を練っていこうということになったのですが、途中で曹操にばれて多くの人が殺され、劉備たちも追い落とされ、劉備・関羽・張飛の義兄弟も散り散りになってしまいます。

関羽は劉備の奥方の守備を任されていたので、潔く討ち死にすることも難しく、曹操に説得されて一時曹操に投降します。劉備の所在が分かればすぐに劉備のところに駆けつけるという条件付きで。

ある日関羽は劉備の所在を知り、曹操の元を去ります。途中には何度も関所があり、通行許可書などないために曹操の部下たちにいちいち止められ、行く手を阻まれますが、曹操の部下たちの邪魔をいちいち蹴散らしながら奥方を守りつつ旅を続けます。そして途中で、張飛が立てこもっている城があるのを知ります。そこで張飛に使者を派遣し劉備の奥方を丁重にお迎えするようにと伝えるのですが、あわてて出てきた張飛は何を血迷ったか関羽に襲い掛かります。

そう、張飛は関羽が曹操に寝返った裏切り者だと思い込んでいたのです。

しかし関羽から見ると、昔は兄弟のように信頼し合っていたのに、昔の気持ちを忘れたのか!(忘了旧情)ということになるわけですね。

今日ご紹介した“歇后语”はそういう背景があるわけです。

ちなみにこの後はどうなったかというと、曹操の追手が現れたのでそれを関羽が討つことで張飛の誤解は解け、2人はまた昔のような信頼し合った義兄弟の関係に戻ったのでした。

伊藤祥雄

1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了

通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当

著書

  • 文法から学べる中国語
  • 中国語!聞き取り・書き取りドリル
  • CD付き 文法から学べる中国語ドリル
  • 中国語検定対策4級問題集
  • 中国語検定対策3級問題集
  • ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本

バックナンバー

記事一覧