翻訳コラム

COLUMN

第467回迷う声調

2020.5.13
通訳・翻訳家 伊藤祥雄

中国語はすべての漢字に決まった声調がついていますよね~。それは辞書を見れば分かるのですが、ちょっと「あれ?」と思うものもあります。

先日某局の中国語放送のオンデマンドの番組(動画)で、声の吹き替えをしました。そしてすでにHP上に公開されていたので見てみたところ、“一会儿”という単語の発音を僕はこんなふうに読んでいました。

一会儿
yìhuĭr
しばらく

この単語、正しくは「yíhuìr」ですね。“会”の発音は「huì」、第4声です。そうなると当然その前に置かれている“一”は「yí」と第2声で読むはずです。

でも実際、少なくとも北京などでは「yìhuĭr」と読まれることが多いようです。理由はよく分かりませんが、本来あるべき発音で読まれていない単語、実は結構ありますよね。

僕は北京留学時代にこの「yìhuĭr」という発音で“一会儿”を読む癖がついてしまっています(笑)。でも放送ではあまり出ないようにと思っていたのですが、しっかり「yìhuĭr」になっていました。

どちらで読むか、迷うところですよね。ニュース原稿などお堅い場合であれば、辞書通りの発音「yíhuìr」にすべきかもしれませんが、フリートークや吹き替えをする場合などでは、口語発音の「yìhuĭr」にしたほうが、聞いている人に親しみを持ってもらえそうです。ケースバイケースといったところでしょうか。

ほかに、“鳗”という字の声調も不思議ですね。

この字、鰻(ウナギ)のことですが、たいていの中国人は鰻のことをこう言います。

鳗鱼
mànyú

でも辞書を見てみると、どの辞書も「mányú」と書いてあるのです。

先日も日本の食材を紹介する番組の収録をしたのですが、ある出演者がウナギのことを「mànyú」と読んだので「mányú」と読むようにお願いするとすごく驚いていました。「今までの人生の中でこの字を mán と読んだことなんて一度もなく、自分が読み間違えたなんてカケラも思っていませんでした!(笑)」と。

でも、中国人がほぼ全員「mànyú」だと思っているのなら、日本の放送局の中国語アナウンサーが「mányú」と言っているのを聞くと「間違っている!」と思ってしまわないですかね~?(苦笑)。CCTV(中国中央電視台)など中国のメディアのアナウンサーはどう読んでいるでしょうかね。以前たまたまCCTVを見ていると、ウナギの養殖のレポートをしていたレポーターは「mànyú」と言っていました。でもアナウンサーではなく記者のようでしたから、アナウンサーがなんと読むか聞きたいですねぇ。

あと、時刻の「1時」を表す“一点”の読み方も悩ましいと思っています。

数字の“一”は、基本の発音は「yī」ですが、場合によって「yí」や「yì」に変調しますよね?簡単におさらいしますと:

  • 「一番目、二番目」というように順番や序列を表す場合、変調しない。
  • 「1つ、一本、一人」というように数量を表す場合、変調する。

なので、“一个(1つ)”は「yí ge」、“一条(一本)”は「yì tiáo」と、“一”を変調させて読みます。

逆に“一楼(一階)”は1番目の階ということで、数量ではなく順番を表しますので「yī lóu」と読み、“一”は変調させません。

そういうところから見てみると、時刻の「1時」は、僕の意識では「順番」です。だから変調させずに「yī diăn」と読むだろうと思いますし、実際「yī diăn」と読む中国人も多いと思うのですが、「yì diăn」と変調させる人もいます。

本来的には多分「yì diăn」と変調させるべきなんだろうなとは思います。だって、2時は“两点 liăng diăn”と言いますからね。数字の2を言う時に“两”を使うのは数量を表す時です。順番を表す時は“二 èr”を使います。ということは、時刻は数量扱いだということが言えますので、だったら1時は「yì diăn」と読むべきです。

昔は時刻は鐘や太鼓の音で知らされていました。だから鐘や太鼓の音を数えて“一点”“两点”“三点”と数えていたということで、時刻は順番ではなく数量扱いなのだそうです。だから2時は“两点”なのですね。

でも1時を「yì diăn」と読むと「少し」という意味の“一点(儿) yìdiăn(r)”と同じ発音になってしまいますので、それを避けたかったのかもしれませんね。結構多くの人が「yī diăn」と発音しているようです。

ま、要するにどちらでもいいのでしょう。僕たちとしては、自分が発音するのはどちらか好きな方を選んでいいと思いますが、相手の中国人が自分の選んだ方と違う発音をした時に、反応できるよう心づもりをしておけばいいかと、まぁ最近はそんなふうに思うようにしています。皆さんはどうしていますか?

伊藤祥雄

1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了

通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当

著書

  • 文法から学べる中国語
  • 中国語!聞き取り・書き取りドリル
  • CD付き 文法から学べる中国語ドリル
  • 中国語検定対策4級問題集
  • 中国語検定対策3級問題集
  • ぜったい通じるカンタンフレーズで中国語がスラスラ話せる本

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